<私の恩人>伊原剛志 玉三郎からの意外な言葉が軸に
そうやってたくさん話す中で、印象深いのが「伊原には品がある」と言っていただいたことでした。 僕は育ちもいいこともないし、どっちかというとガラの悪い街で育ってきた。それなのに「伊原には品がある」と。そして「それは生まれ持ってのこと。あなたがどんな環境で育ったとしても、やっぱり伊原には品がある」と。 その時は「そんなもんなんかなぁ」くらいに思っていたんですけど、やっぱり頭のどこかに残ってるんですよね。僕としては「品がある」という言葉と自分が結びつきにくかったので。 でも、今この歳になって、この意味は深いなと。映画「硫黄島からの手紙」(2006年)の中で、バロン西という男爵の役をさせてもらったんですけど、これは品がないとダメな役なんですよね。「古都」(12月3日公開)という映画では京都の呉服屋さんの役をしているんです。これも品が求められる。こういうことが玉三郎さんのおっしゃっていたことなのかなと。 本当に自分に品があるのかどうかなんて自分で判断することでもないし、自分には一番、分からない部分だとも思うんです。だからこそ、自分で絶対に思いもしないところに目を向けさせてくれた玉三郎さんには、より一層、感謝しかないと思っています。
あと、あの方は日々努力して、演劇の世界に身を置いてらっしゃる。努力すること、プロフェッショナルとはこういうことなのか。それも見せてもらいました。細かいことかもしれませんが、僕、毎朝ストレッチをしてるんですけど、それも、玉三郎さんがストレッチは欠かしたことがないとおっしゃっているところからやるようになりましたしね。 恩返しなんてことがあるとしたら、僕が役者として、もっともっと突き詰めていくということ。そして、今度は僕が若い役者に対して自分の“持ち物”を渡していく。そういうことになるのかなと。 最近はお会いする機会がなかったんですけど、もし、共演する機会があったら「ちょっとは成長したね」と思っていただけたらうれしいですね。ま、そう思ってくださるかどうかは分からないですけど(笑)。いつかそう思ってもらえるよう、積み重ねを続けていきたいと思います。 (取材・文/中西正男) ■伊原剛志(いはら・つよし) 1963年11月6日に福岡県北九州市で生まれ、その後、大阪へ移る。82年、ジャパンアクションクラブに入団。83年に舞台「真夜中のパーティ」で俳優デビューする。96年、NHK連続テレビ小説「ふたりっこ」でヒロインの幼なじみ役を演じ、注目を集める。2015年NHK大河ドラマ「花燃ゆ」では坂本龍馬役を演じる。映画「硫黄島からの手紙」「十三人の刺客」「相棒-劇場版III-巨大密室!特命係 絶海の孤島へ」などに出演。ブラジル映画「汚れた心」に主演し「第15回プンタデルエステ国際映画祭」の主演男優賞を受賞した。出演映画「家族の日」は全国順次公開中。名古屋ではミッドランドスクエアシネマ2で12日から公開されており、東京では19日から新宿・K's cinemaで上映される。20日には伊原をはじめ、出演者の田中美里、岸部一徳、そして大森青児監督による舞台あいさつが行われる。 ■中西正男 1974年大阪府枚方市生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。大阪報道部で芸能担当記者となり、演芸、宝塚歌劇団などを取材。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、芸能ジャーナリストに転身。現在、ABCテレビ「おはよう朝日です」などに出演中。