【アメリカ大統領選の最重要争点】バイデンは人工妊娠中絶問題で再びトランプに勝てるのか?
女性の選択と自由の権利
上で述べたトランプ前大統領のコメントに対して、カマラ・ハリス副大統領は、妊娠6週目以後の人工妊娠中絶を禁止する法案を5月1日から施行した南部フロリダ州で演説を行い、政府が人工妊娠中絶をすべきか否かを命令するべきではないと、女性支持者に訴えた。中絶は政府ではなく、本人や医者の判断によると言うのだ。 また、仮に第2次トランプ政権が発足した場合、人工妊娠中絶禁止の政策が強化され、中絶に関して選択の自由が制限されると声を大にしてアピールした。さらに、ハリス氏は、「トランプは女性を信頼していない」と強調し、支持者から拍手喝采を浴びた。 バイデン大統領も演説の際、人工妊娠中絶について、「皆さんは、お母さんやお祖母さんよりも、権利が制限されている」と、有権者に訴える。バイデン大統領は、秋の選挙で連邦下院で多数派を奪還し、連邦上院で多数派を維持すれば、人工妊娠中絶容認の連邦法を成立させることができると続ける。この主張は、“侵害”された権利の事実上の回復を可能とするものであり、殊に女性有権者には響くものがあるだろう。 バイデン大統領とハリス副大統領は、人工妊娠中絶を、女性の選択と自由の権利として論じ、民主党リベラル派、穏健派から保守派の女性までも含めて自陣に取り込もうとしている。バイデン大統領とハリス副大統領の個人の権利や価値観に訴えた議論は、トランプ前大統領の一貫性のない議論よりもはるかに効果的であろう。 人工妊娠中絶の議論で、トランプ前大統領は明らかに守勢に回っている。経済とインフレの支持率でトランプ前大統領にリードを許しているバイデン大統領とハリス副大統領だが、彼らは人工妊娠中絶問題を、トランプ氏を2回破る最重要争点として位置づけ、「譲れない争点」で活路を見出して再選を目指しているのだ。
海野素央