「詐欺に遭った人間なら搾り取れると…」 SNSで”女性”にだまされた50代、崩れた信用 被害回復へすがる気持ちで契約した弁護士は
SNS型投資詐欺、被害回復難しく
SNS型投資詐欺は、特殊詐欺の中でも被害回復が特に難しい。相談数は22年から急増しているが、詐欺グループに法人などの実態がなく、振込先口座から資産が移されていケースが多いためだ。一方で、回収の見込みがほとんどないにもかかわらず、「被害金を取り戻せる」と誇大な広告を出して高額の着手金を請求する弁護士事務所が後を絶たない。インターネット被害対策長野弁護団は、悪質な事務所もあるとして警鐘を鳴らしている。 【表】SNS型投資詐欺を防ぐポイント
「特殊詐欺被害弁護士」に連絡
「弁護士は社会正義のために闘ってくれるものだと信じていた」。SNSで気を許した女性を名乗る人物に約100万円をだまし取られた東信地方の50代男性は昨年8月、はやる気持ちで「特殊詐欺被害弁護士」とネットで検索。「特殊詐欺被害の回復に特化しています」とうたう弁護士事務所に連絡した。
「早く手を打てば9割は取り戻せる」
電話口で事務員に被害状況を説明すると「やるもやらないも自由ですが、早く手を打てば9割は取り戻せる」と言われた。すがる気持ちで連絡したその日に契約。「高い」と感じつつ、着手金として25万円を振り込んだ。
連絡続けても「対応中」
その後、弁護士事務所とは全てLINE(ライン)でやりとりすることに。詐欺被害に遭った際の振込先口座の名義といった取引情報を伝えたが、1週間以上も返事がなかった。催促すると「口座の凍結や返金の手続きに時間がかかっている」。数週間おきに連絡を続けたが「対応中」と繰り返すのみで、電話で弁護士と直接話したいと要望すると、決まって「不在」か「来客中」と返された。
口コミを調べると…
今年6月、この弁護士事務所の口コミをネットで調べると、着手金を取られるだけで被害金の返還に至らない―と二次被害を訴える内容が複数見つかった。所属先の弁護士会に報告した上で弁護士に着手金を返すよう求めると、弁護士側から初めてオンラインで話す機会が設けられた。25万円のうち20万円の返金を提案され、解約できたという。
「信用」の認識崩れ落ちた
「詐欺に遭うような素質を持った人間だからまだ絞り取れると思ったのか」と男性。「50年以上の人生で自分なりに築いてきた『信用していいもの』についての認識が崩れ落ちた」と憤る。
神奈川県や埼玉県では、被害金返還請求に伴う着手金を集めるため、弁護士名義を無資格者に貸して依頼を受けたとして弁護士法違反で摘発されたり、トラブルになって弁護士会が調査したりする事例が起きている。 インターネット被害対策長野弁護団の山内孝次弁護士は「被害者心理につけ込む悪質な業者が残念ながら存在する。SNS型の投資詐欺は回収手段が限られることを認識した上で、着手金を支払う前に弁護士本人から納得のいく説明を受けてから慎重に依頼するようにしてほしい」と話している。