【独占】「スローダウンする」...カナダ首相夫人が自伝につづった「夫と家庭と心の問題」
<昨夏に「法的別居」を決めた「ファーストレディ」ソフィー・トルドーは、なぜ回顧録と自己啓発の要素を盛り込んだ本を書いたのか>
どんなときも自分に正直でありたい。 ソフィー・グレゴワール・トルドーは本誌にそう語った。2015年に夫のジャスティンがカナダ首相となってからは事実上のファーストレディーとして多忙な日々が続くが、メンタルヘルスに関する啓発やチャリティーの活動もずっと続けている。 【動画】自伝と「前進」について語るソフィー・トルドー そして今度は(おそらく昨年夏の「法的別居」をきっかけに)自分の半生と真摯な思いを一冊の本にまとめた。 「いつも自分に問いかけてきた。それをやるのは正しいことか、本当にそれをやりたいのかって」とソフィーは言う。 「誰かの妻になったとか、人が私をファーストレディーと見なしているとか、そんなことで自分を変えたくない。役割や肩書に関係なく、自分の信じる道を進む。そうしてこそ誰かの役にも立てる」 誰かの役に立ちたい。そう思うから、今度の本も書いた。題して『Closer Together(もっと寄り添って』。 この本の宣伝で各地を回れば、当然ながら別居の理由をとやかく聞かれる。でも彼女は軽く受け流して、この本を書かなくてはならなかった理由のほうを熱心に語る。 この本は半ば回顧録、半ば自己啓発の書だ。著者は自分自身の経験を率直に語りつつ、子供時代の体験がいかにその後のメンタルヘルスや人間関係、家庭生活に影響するかを説明している。 著名な性科学者で臨床医でもあるエステル・ペレルをはじめ、たくさんの専門家の助言も載せた。どうやって人生の目標を見つければいいか、消えないトラウマにどう対処し、どのように自分の精神状態と付き合えばいいかも具体的に説いている。 「みんなが自分自身をもっとよく知り、もっと自分を愛せるようになってほしい。そう思うからこの本を書いた。そうすれば、どんな困難にも立ち向かえるツールとチャンスが得られると思うから」。ズームを使った遠隔インタビューで、ソフィーはそう語った。 ■想定外の変化に適応 本書には10代後半で患った神経性過食症のつらい日々も、夫ジャスティンとのなれそめも克明につづられている。2人は幼なじみだが、20代になってから街角でばったり出会った。 そのとき彼は彼女の電話番号を知りたがり、彼女は「本気で知りたいのなら、きっとどこかで答えが見つかる」と答えた。すると翌日、彼女の電話が鳴り、そこから全てが始まった──らしい。 結婚したのは2005年。今は3人の子供(16歳のグザビエ、15歳のエラグラース、10歳のアドリアン)がいる。政治家の妻と3児の母の役割を両立させてきた日々のことは詳しく書いてあるが、別居の件には(もちろん)あまり触れていない。 首相の妻になりたいなんて思ったことは一度もないと、ソフィーは語った。それでも3人の子供が生まれ、愛する夫が首相となってからは、その役割を必死で引き受けた。 「自分のパートナーが首相だなんて、私はちっとも意識していない。もちろん、私たちの結婚が政治的なものだなんて思ったことはない」と彼女は言う。 「でも、気が付けば私たちはそういう立場になっていて、みんなから常に見張られ、とやかく言われるような状況に置かれていた」 「私と彼の関係がどうなっているかを世界中の人に知らせなきゃいけないような状況は、もちろん私の望むところではない。確かに私は首相の妻だけど、それは私の人生のごく一部でしかない」と、彼女は続けた。 「カメラに映ることだけが私の人生じゃない」 それでも一緒に政治の道を歩み出し、パートナーが首相となった以上、「思いもしなかったことがたくさん起きるし、それには常に適応しなきゃいけない」と、彼女は言う。 その「適応」とは何か。ソフィーにとっては、まず仕事と私生活のバランスを大事にし、ひたすら現在に集中することだ。そのために体を動かし、呼吸を整え、十分な休息を取り、(「常に自分に正直に」という信念には反するかもしれないが)自分の嫌いなところも受け入れる。 「セルフケアには自信がある」と彼女は言う。「いえ、ヘアスタイルやメークの話じゃないの。要は最適なバランスを見つけ、自分の欠点を見つめ、自分の痛みを見つめるってこと。私のやり方? ヨガをやり、自分自身とのバランスを取り戻し、スローダウンする。けっこう難しいけど」 家族や子育てについては、丸々1章を割いた。そして働く母親を念頭に、家庭生活の負担を自分だけで背負い込んではいけないとアドバイスしている。無理をせず、誰かに助けを求めればいい。パートナーに、友人に、あるいは地域の人に。それが当然であるべきだとソフィーは考える。 「子育ては一人でするものではない」と彼女は言う。 「私が話を聞いた多くのシングルマザーは、社会的に弱い立場に置かれ、世の中から疎外されていた。そんな状態では人として成長していけない。友人に、近所の人に、コミュニティーにもっとサポートを求めればいい。そうすることで互いの絆が強まれば、誰も取り残されずに済むと思う」 仕事のプレッシャーや人間関係、家族への責任に押しつぶされそうになっても、自分の抱える痛みを見つめ直して、メンタルヘルスの維持に前向きに取り組むこと。それが重要だとも彼女は言う。