「郵便切手」「消印」は、英語でなんと呼ぶ…? その「意外な呼び方」の歴史から見えてくること
切手の「英語」、なぜそう呼ぶ?
私たちの身近にある「切手」。多くの人がスマホなどでメッセージを送るようになっても、多数の「切手好き」がいるところを見ると、切手がもつ「文化」としての存在感の大きさを感じずにはいられません。 当面外部配信ナシ【写真】前島密は、こんな顔でした そんな切手の歴史を知るのに最適な一冊が、その名も『切手の歴史』。著者は、女子美術大学名誉教授で歴史学者・暦学者の岡田芳朗さん(故人)です。 本書は切手という文化について、さまざまなことをおしえてくれます。 たとえば、切手は英語で「スタンプ」と言いますが、その呼び方の来歴は、切手の越し方についてさまざまなことをおしえてくれます。同書より引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。 〈英語では郵便切手のことをポスティジ・スタンプ(postage stamp)という。ポスティジは郵便を意味する語であるが、スタンプはもともと押印を指す言葉である。観光地などにある風景スタンプとか記念スタンプとか呼んでいるものがスタンプである。 英語では切手のことを単にスタンプと呼ぶことが多い。アメリカには「スタンプス」という名の切手週刊誌があるぐらいである〔注・のちに合併により、「MEKEEL’S & Stamps」という名称に〕。切手もスタンプ、消印もスタンプではまぎらわしくてしかたがない。なぜこんなことになったのかというと、切手が誕生する以前には、料金収納済みの証拠として、封書の上にスタンプを押したのである。この習慣から、切手のこともスタンプと呼ぶようになったものと考えられる。〉 〈もっとも、最初の切手が発行されたとき、この小紙片をなんと呼んだらよいのか、判断に苦しんだイギリス郵政当局は、とりあえず「ラベル」と呼ぶことにした。世界最初の切手の二四〇枚からなるシートの四囲の耳紙には、「価格、ラベル一枚につき一ペニー……」と記されていたのである。 フランス語では郵便切手のことをタンブル・ポスト(timbre poste)と呼んでいるが、このタンブルも消印を押すという意味があって、英語のスタンプと同様である。ドイツ語ではブリーフ・マルケン(Briefmarken)という。ブリーフは手紙のことで、マルケ(ン)は合札・割符の意味で、わが国の切手の本来の意味に近いものである。 ところで、英語では切手も押印もスタンプでまぎらわしいと書いたが、切手以前には料金収納印はスタンプであった。そして切手がスタンプとひろく呼ばれる頃になると、切手の使用済みを示すための押印は、はっきり消印=キャンセレーション(cancellation)と呼ばれるようになった。 キャンセレーションは、「ホテルの予約をキャンセルした」というようなときによく用いられるキャンセル(cancel)という語からでた言葉で、無効にする、解除するなどという意味である。たしかに切手に消印を押すことによって、切手の効力はこれかぎりとなり、以後無効となるわけである。〉 人々がどのような工夫によって郵便制度を進化させてきたか。そして、それに合わせて関係する物品の名称を変化させてきたか。その苦労が、切手の名称の変遷から見えてくるようです。 さらに【つづき】「「郵便切手」に、じつは「別の名前の候補」があったことをご存知ですか…? 前島密が考えていたこと」の記事では、日本の「切手」の歴史の一端を見ていきます。
学術文庫&選書メチエ編集部