恩田陸さんにインパクトを与えた3冊。8歳の頃、寝食を忘れて読んだ『チョコレート工場の秘密』
何も起こらなくても面白い小説はある、と気づく。
恩田さんの場合、本のある生活がデフォルトで呼吸するように本が身近にあったため、人生観を変えたり生き方に影響を与えるような存在ではなかったといいます。だからこの後に出てくるのは〝成長させてくれた〟というより〝小説に対する考え方が変わった〟本。 「その意味で、インパクトが大きかったのが20歳で読んだ『細雪』です。 当時の私はエンタメ至上主義。小説もプロット重視で、面白いことが絶対だと信じていました。アガサ・クリスティーなど好きな作家を追いかけることも多く、谷崎潤一郎もそのひとり。激しめでトリッキーな小説を書く技巧派だと尊敬していたんです。ところが『細雪』は、あらすじもなければ、山もオチもない。それなのに文章になんともいえないスリルとサスペンスを感じて、何も起こらなくても面白い小説はあるんだ、と気づき。テクニックがあってこそ、ではありますが、小説観は確かに変わりましたね」 社会人になり、本を読む時間も余裕もなかった24歳。大病を患い検査入院中に読んだ小説のパワーに圧倒されます。それが村上龍の『テニスボーイの憂鬱』。 「自分の状況も忘れて読み耽りました。激しいセックス描写も切実に思え、エロスとタナトスは表裏一体だ、と。その頃、1つ年上の酒見賢一さんが日本ファンタジーノベル大賞を受賞。20代で素晴らしい作品を書く人がいると驚き、自分も書いてみようかなと思い始めていたんです。病気の経験も、書けるうちに好きなものを書こうと決意するきっかけに」 会社勤務の傍ら執筆活動をスタート。 初めての小説『六番目の小夜子』は、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となり、作家デビューを果たします。
小説を読む喜びを、しみじみ考えた。
デビューから四半世紀が経った50歳から読み始めたミラン・クンデラの数々の作品も、今まで読んできた本とは違う感覚を味わったものでした。 「プロになってから、次はこんなジャンルで、こういうテーマでとか、常にいろいろ考えているわけです。でもクンデラ作品をいくつか読んだら、まったく自由に書いている。読者に面白いと思ってもらうためでなく、自分のために書いているようで。そういう作品もしみじみ面白いとわかったことは、作者としても、読者としてもすごく新鮮でした。自分が書こうとは思わないけれど、小説は自由なんだ、と改めて考えさせられた本です」 効率重視の現代は、読書においても選ぶ本を失敗したくないと、ジャンルばかりを気にしすぎる傾向があるようです。「ジャンルを超えて面白く読めるものはたくさんあります。損得を気にせず、自由に本の楽しみを見つけてほしい」