アニメ『逃げ上手の若君』の効果的な“ゴア描写” 狂気を滲ませた東地宏樹の名演が光る
TOKYO MX・BS11ほかにて放送されている『逃げ上手の若君』。現在までに多くの戦闘シーンが描かれてきたが、本作の特徴のひとつとして“ゴア描写”がある。第八回「かくれんぼ戦争」でも瘴奸率いる悪党集団「征蟻党」との血まみれな戦闘シーンが満載となった。 【写真】「怖すぎるだろ…」瘴奸の登場シーン 時行たちの前に立ちはだかる悪党集団「征蟻党」はこれまでの敵とは違う雰囲気を漂わせている賊だ。雫、弧次郎、亜也子、風間玄蕃だけの「逃若党」であれば、おそらくコテンパンにやられていた可能性が高いが、今は軍略家として名高い吹雪が味方にいるおかげで、安心して待ち受けることができる。見事、吹雪の策略が功を奏し、征蟻党の面々を足止めすることに成功する。場所、季節、人間の性格を熟知した吹雪の前に敵なしかと思われたが、そこに征蟻党幹部が立ちはだかる。吹雪の策略を気にもせず、ただまっすぐに領地へと突き進んでくる姿は、言ってしまえばただただ恐怖でしかない。 原作でも征蟻党幹部の戦闘力が強調されているシーンではあったが、アニメでは闇夜に移る真っ赤な血がはっきりと描かれていたため、かなり迫力のあるシーンとなっていた。 加えて、特筆したいのは死蝋、白骨、腐乱の3人が守備兵を一蹴するシーン。3人をアップで捉えたカメラングルの中で、血の雨がスローモーションで降り注ぐ。瘴奸を筆頭とする征蟻党の異次元の強さが強調された、アニメならではの演出だった。原作未読であれば、時行たちに勝ち目はないと愕然としていたことだろう。
瘴奸が斬りかかる場面で光った、東地宏樹の“怪演”
第八回だけに限らず、『逃げ上手の若君』ではこれまでも多くのゴア描写が象徴的に描かれてきた。第一回では鎌倉幕府を滅亡させた張本人である足利尊氏が致命傷を受けていた幕府の武士に追い打ちをかけるかのように、喉元に弓矢を放つ。ポップなタイトルに惹かれて見た視聴者はきっと悲鳴を上げていたに違いない。第六回では征夷大将軍の護良親王と対峙した尊氏が、一瞬にして護良親王の部下たちの首を落とし、滝のように血が降り注ぎ、不敵な笑みを見せる。横一列に並んだ人間の首が一瞬にして切り落とされるというかなりショッキングなシーンだった。スローモーションで徹底的に尊氏を映し続け、人間の死をあくまでも背景として描くことでさらに恐怖を助長していた。『逃げ上手の若君』はポップなシーンとグロテスクな描写のバランスが適度なのが良い。 吹雪の作戦で瘴奸を時行が待つ部屋に誘導することに成功した。吹雪に教えられた構えをする時行に、瘴奸が「無駄無駄」と斬りかかるシーンでは、漫画的な線も多用しつつ、かなり迫力のあるものに。殺しに生きがいを感じている瘴奸に、実は武士的な相手を重んじる姿勢も持ち合わせているのが意外ではあったが、やはり殺しに快楽を感じている点では危険な人物だ。狂気的な一面を表現する東地宏樹の声も素晴らしく、まさに名演だった。 さて、吹雪が時行に教えていた左手を拝むポーズの狙いは何なのだろうか。時行に勝てるチャンスがあるのであれば、それは変化球しかない。これまで幾度もピンチをくぐり抜けてきた時行であれば、ピンチを乗り越えられるはずだ。
川崎龍也