奥山大史監督ならではの映像美で紡ぐ少年の成長 光に包まれたスケートシーンは特筆もの 映画『ぼくのお日さま』レビュー
◆磨きのかかった映像美に惹きこまれる
前作『僕はイエス様が嫌い』でも、その詩的で美しい映像が印象的だったけれど、今作ではその映像の美しさにさらに磨きがかかっている。あまりに洗練されていて、まるでMVを見ているような感覚になる時もあった。特に光に包まれたフィギュアスケートやアイスダンスのシーンは特筆もの。子どもの頃スケートを習っていたという奥山監督が滑りながらカメラをまわしていたそうで、そんな経験者だからこそ生み出すことができた、数少ないスケート映画といえる。 主人公のタクヤは、吃音があるし、アイスホッケーも苦手だけれど、それで卑屈になることもなくどこかポジティヴ。豊かな自然の多いところに住み、仲良しの友達もいて、笑顔の多い日々を生きている。ある日美しく優雅に氷の上を滑るフィギュアスケート少女のさくらに目を奪われ、彼女とアイスダンスのペアを組むことになるとはりきって懸命に練習に取り組む。 そんなタクヤやさくらたちが披露する美しいスケートシーンの数々のほか、個人的に特に印象深いのは、主人公が家族と一緒に食卓を囲むシーン。奥山監督は前作と同じく、家族の食事シーンで、それぞれの性格や互いの関係性を浮かび上がらせる。タクヤがアイスダンスを始めたことに周りの家族があまりいい顔をしない中、タクヤと同じ話し方をする父親だけは、自分の好きなようにすればいいと背中を押す。ああそうか。タクヤが好きに向かって突き進むポジティヴな性格なのは、こういう否定しない大人が身近にいるからではないか。自分もこういう大人でありたい。難しいけれど。 本作では主人公タクヤの1年の成長が情感豊かに描かれる一方、人生経験の浅い子どもが持つ残酷さ、マイノリティの痛みも描かれている。そしてそれは誰かが悪いというのではなく、生きていくうえで通過せざるをえない現実として淡々と描写されている。『僕はイエス様が嫌い』と同様に、言葉ではなく映像で語る卓越したセンス、そして監督・脚本・撮影・編集をすべて手掛けて作品と真摯に向き合う監督の誠実さがにじみ出る作品だと感じた。(文:古川祐子) 映画『ぼくのお日さま』は、テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて9月6~8日先行公開、9月13日より全国公開。