「虎に翼」吉田恵里香が続編を書くならそのテーマは…?
――ほかにも、脚本とは違っていて驚いたシーンはありますか? 「第10週の最後の『次週へ続く』が小橋のセリフになっていたので、愛されているなと。演出の梛川(善郎)さんは、小橋のこと大好きだなと思いました(笑)。ほかには、よねと轟がしゃべっている時に、階段を使っていたり、(撮影の)構図がすごく上手な作品だなと思っているので、出来上がった映像を見ていてワクワクします。私がセットを把握して書いているものと、知らないで書いているものがあるので、セットが生かされているのを見ると、胸がときめきます!」 ――大きな山場である原爆裁判とそれにつながる戦争中の描写について、脚本制作に当たってどんなことを心掛けたか教えていただけますでしょうか。 「モデルの三淵嘉子さんが原爆裁判を担当されていたことを知った時から、扱うことは決めていたんです。この作品自体は、戦後がメインで、戦争の傷跡を描いている作品なので、原爆裁判を大きな山場として書きたいという思いがあって。でも、どこまで扱うか、自分の中で扱い切れるのかが不安で…。今回は、スタッフさん含めてすごく信頼があったので、真正面から扱うことにしました。もちろん私も調べましたが、法律考証の先生方、演出の方含め、すごくいろいろなことを調べていただいて、私の30年生きてきた知識でも全然知らないことだらけで、学ぶきっかけになった社会問題、日本の歴史だったので、良かったです」
――夫婦別姓やLGBTQの問題をこの作品に盛り込んだ背景、意図を教えてください。 「作品として、人権とか法律、憲法14条の国民が平等であるということがテーマです。もちろん昔と比べたら良くなっていることはたくさんあるんですけど、まだ周知されていないことによって、平等ではない扱いをされている人がいるのが事実です。それが、いま始まったのかというとそうではなくて、寅子が生きている時代や、寅子が生まれる前から存在したことばかりなんです。そんな当時の大部分の方々が見ないようにしてきたことを、きちんと見せることに意味があると思ったので、当時からいた人を書こうという気持ちが強くて、この形になりました。挑戦として書いたわけではなく、寅子が出会う人を考えれば通る道だと思います。私が盛り込んだ訳ではなく、今までが意図的に削除されたり省かれたり目をそらされたりしてきただけだと思います」 ――視聴者の皆さんにどう受け取ってほしいですか? 「浮かんだ気持ちに正直でいいと思っています。そういう問題を抱えた方々が、当時からいたということは事実で、現在も変わらないので、70年以上たってもあまり変わっていないということに、『どうしてなのかな』と思いをはせていただけたら」 ――夫婦別姓や同性愛について、視聴者から「当時からいたよね」や「今も変わってないね」という気付き、反響が届いていると思いますが、どう感じられていますか? 「差別や誹謗中傷をしなければ、どういった感情を持ってもいいと思っています。当時から苦しんだり、折れて世の流れに身を任せた人もいっぱいいたと思うので、それを知ってもらうってことが大事で。これらの問題が、最近出た問題と思っている人が結構多くて、『今出たばかりで、解決できないから未来に投げちゃおう』みたいなマインドになってしまうと思うんです。だけど、実は100年近く前からずっとあった問題なんだよと分かってもらうことが第一歩で、そこからいろいろ始まるのかなと。さまざまな意見はあるでしょうが、作品への好みとかは私が口出しすることではないし、作品の好き嫌いとかはその人が決めればいいんです。ただ寅子の時代にも悩んでいた人が確実にいて、今も悩んでいる人がいるっていうことに対して、否定するのは違うんじゃないかと。私はどう言われてもいいんですけど、当事者の人が批判されたり、矢面に立つべきではないと思うので、エンターテインメントとしてやれることがあるんじゃないかと感じています」 ――性的マイノリティーについて、勉強したいけれど間違ったことを聞いて傷つけてしまうことを恐れて行動に移せない人もいっぱいいると思います。そんな中で、吉田さんはどういうふうに向き合って作品を描いたのでしょうか? 「当事者の人って、教材でも教える側でもないんです。やっぱり当事者の人に聞きたくなってしまうし、私も聞いてしまって反省する部分もあるんですけど。教える事を当事者の人がやるのは違うと思うので、エンターテインメント作品がそれを担って『知るきっかけ』になるのは大事だと思います。大半のことは、学術書とか研究書含めて信頼度が高い情報が増えているので、きっかけさえあればそこから知ることができるんです。私も間違ってしまうことはあって、それで当事者の人を傷つけてしまうことに関しては、もう本当に申し訳ないって気持ちなんです。でも、怒られるからやらないというマインドの人の方が多いと、マイノリティーな人たちを邪魔者扱いしたい人たちの思うつぼになってしまうんじゃないかなと思うので。私が元気なうちは、私が怒られる分にはいいので、自分が勉強したり、書くことを当たり前にしていきたいと思っています。未来に託し過ぎて、『今は怒られない範囲で、敵を作らないようにしておこう』とすると、歩みが遅くなってしまうので。人は絶対に間違えるので、知ろうと思うことを恐れないでほしいです。みんなどこかしらでは怒られるし、間違ったことをしてしまうと思うんですよね。開き直るわけではないですが、それはもう勉強してこなかった私たちの責任なのでしょうがないと思っています」