徐々に広がるジェンダーフリー…性別で決まる職業はない JAC初の男性CA、圧倒的に女性が多い業界で活躍するいま、後進に伝えたい思い
鹿児島県霧島市の日本エアコミューター(JAC、武井真剛社長)に今春、初めて男性の客室乗務員(CA)が誕生した。「CAは女性の仕事」と社会に染みついた職業のジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)は少しずつだが着実に解きほぐされている。19日は男性の健康と幸福に目を向け、ジェンダー平等を目指す国際男性デー。 【写真】〈別カット〉日本エアコミューターで初の男性CAとなった本橋献人さん。笑顔の接客を心がけている=霧島市
「キャンディーはいかがですか」。上空5000メートル。姿勢良く、客室の通路を歩きあめを配る。4月にJAC初の男性CAとして採用された本橋献人さん(23)だ。「快適なフライトを届けたい」と張り切る。 CAに興味を持ったのは、高校3年生の頃、英語の女性教諭が抱いていたCAへの憧れを聞いてから。地元は静岡空港にほど近い静岡県吉田町。人と関わるのも好きで、興味が将来の目標に変わるのに時間はかからなかった。 訓練を経て6月から各地を飛び回る。乗客から「珍しいね」としばしば声を掛けられ、驚かれることもあったが、気にはしていない。「なりたい仕事に就けて、毎日が楽しい」 ■ ■ 長らく、CAは女性が夢見る花形職業だった。2020年の国勢調査によると、全国のCAは1万5710人。うち男性は450人と全体の3%に満たない。本橋さんのような男性は圧倒的に少数派だ。 しかし近年、CAを志望する男性は増加している。日本航空(JAL)は「男性の採用を強化する段階にある」、全日本空輸(ANA)は「コロナ明けとそれ以前と比べ新卒、キャリア採用とも男性の応募が伸び、それに伴い採用も増えている」と説明する。
75人のCAが働くJACでは例年、CA枠に約300人が応募する。そのうち男性は10人弱。採用担当者(32)は「男性の応募が少なく採用に結び付きにくいが、増えれば比率は高くなる」とみる。 現役・経験者約2500人が加入する日本CA協会(東京)の真山美雪会長は「徐々にジェンダーフリーが進展している」と業界の採用傾向を評価する。 ■ ■ 1980年代にJALでCAだった真山会長によると、70年代まで女性の定年は30歳。結婚や妊娠による退職制度や「容姿端麗」という応募資格があった。女性に偏重したのは「もてなすのは女性」「女性は補助的な業務をする」との風潮が背景にあったという。 同協会がCA志望者向けに開く講座には男性の姿が目立ってきた。真山会長は「CAが男性の間で進路の選択肢の一つになってきていると感じる」と話す。 本橋さんは、同世代を見渡しても男女の性差にとらわれず、多様性を重んじる考え方が標準だという。だから本橋さんはCAに男性が増えてほしいという思いは特に持っていない。
CAに限らず看護師、保育士など、女性が主力だった職業を目指す男性は増えている。「性別に関係なく、これから入る人に居心地よく、やりがいのある仕事だということを伝えることが、先になった人がやるべきことだと思う」。本橋さんは力強く語った。
南日本新聞 | 鹿児島