じつは、「その場しのぎばかり」…永世七冠・羽生善治の“意外過ぎる告白”と「いい加減さ」がもたらす絶大な効果
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第33回 『日本がアメリカに負ける原因の正体は、自らが作り出す「死の谷」だった…天才科学者・山中伸弥が語る、日本が抱えるヤバすぎる「弱点」』より続く
意味がなさそうなことに意味がある
山中 はたから見たら、僕の人生は無駄ばかり、遠回りで非効率のように見えるかもしれないけれど、そうやってクルクルと回り道をしたからこそ、今の僕があるとも言えます。 羽生 将棋でも、経験を積むに従って、若いころだと無駄だと切り捨ててきたものが、実は重要なんじゃないかと見直すようになりました。意味がなさそうなことに実は意味があるはずだとか、すぐに結果が出るわけではないけれども、小さな積み重ねを日々行うことで新しいアイデアやひらめきが生まれてくるのではないか、とか。 山中 今の社会は効率が最優先されるけれども、一見、役に立たなかったり、無駄と思えたりするようなことの中に、実は未知なるものや新しいアイデアが隠されているのかもしれません。 羽生 直接的な知識として役に立たなくても、それを習得するプロセスが、別の新しいことをやるときの近道になっている、理解するためのステップになっていることはよくあります。ただ、それは具体的に目に見えたり形になって見えたりするものではありません。
プロ棋士の意外な実態
羽生 実は将棋はひとつの局面で、そのほとんどの手は「やらなければよかった」という選択なんです。何をやっても、だいたい「やらないほうがいい」ことが多い(笑)。ある意味、ミスが非常に起こりやすいゲームだとも言えます。 だから、あまり根を詰めて真面目にやり過ぎないほうがいいのかな、と。結果を求めるよりも、プロセスの中に楽しみを見出せるかどうか、やっていること自体に充実感を感じるかどうか、そのほうがむしろ大事だと思います。 山中 それは本当に大切ですね。 羽生 知らない人からすると、プロの棋士は何手も先を読んで、計算しながらやっているように見えるかもしれませんが、実際は全然違うんですよ。