じつは、「その場しのぎばかり」…永世七冠・羽生善治の“意外過ぎる告白”と「いい加減さ」がもたらす絶大な効果
「いい加減なとこはあったほうがいい」
山中 えっ、そうなんですか。 羽生 ええ、手探りで「次はどこに行こうかな」と、その場で何とかするケースがほとんどです。もちろん、その都度ベストな選択を目指していますが、わかりやすい答えを求めていくアプローチではないんです。 100パーセント間違いない、絶対にこれだ、という選択肢はないですね。読み筋が考えていた通りの展開になることも滅多にありません。だから、けっこうその場しのぎです。 その決断は間違っているけれど、結果としては良かったということがあります。たとえば悪手を指した結果、相手のミスを呼び込んで、予想外の勝利となってしまう。では、その悪手を指したことは本当に良かったのかどうか、という問題はありますけれど(笑)。 まったく自分が予想していなかった状況になったときに、どうにかする。その力は数値化できないものだと思います。だから若干いい加減なところがあったほうがいいのかもしれません(笑)。 山中 それは個人的に勇気づけられますね(笑)。
競争が激化するからこそ必要なこと
羽生 今の時代は環境がすごく整っているので、真面目にやっていれば、あるところまでは猛スピードで突っ走ることができる。でも逆に言えば、環境が整ってない時代だったらたどりつけなかった人も、たどりつけているとも言えます。 これまでは「才能はあるけれど、環境が悪くて伸びなかった」ケースはたくさんあったと思います。でもこれから先は、インターネットの普及を背景にして「環境が悪かったために才能が伸びなかった」というケースはどんどん少なくなります。 全体的なレベルや力が上がっている中で、これまでの知識の集積や環境の有利さだけを考えていたのでは、他の人たちと差を付けることは難しくなっていきます。そうすると、これまでとはまったく違うことをやらなければいけないんじゃないか。それは多分、これをやったら必ずプラスになる、必ずマイナスになる、といったものではなく、はっきり数値化できないことが重要なんじゃないかなと思っているんです。 先ほど先生もおっしゃったように、役に立つかどうかわからないことをやるのが大事というか。逆に言うと、何をしていてもいいというか(笑)。もしかしたら、それは何かの役に立っているかもしれないし、ブレイクする鍵になることもあるんじゃないかと思います。 『 「血液を作る細胞は2個だけ…」ノーベル賞科学者・山中伸弥も衝撃を受けた「老衰の恐怖」』 に続く
羽生 善治/山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)