奥山清行さん ガンダムみたいなトラクターは社長専用車
高級輸入車感覚のキャビンで商談を
トークセッション終了後、奥山さんは「ザ・ページ」の取材に応じ、自らトラクターに乗り込んで、開発にかけた熱い思いを語ってくれた。 「このトラクターには単なる機械に留まらず、農家の頼もしいビジネスパートナーになってもらいたい。近い将来のロボット化を見据えて、外見にもあえてロボットの顔を織り込んだ。無人のトラクターを自立走行させ、2台のトラクターが並走して2つの仕事を同時にこなせる方向で技術開発に取り組んでいる」と意気込む。 奥山さんは山形県出身。農家の家系に生まれ、農作業の厳しさを間近に体験しながら育ったが、長じて農業とは縁遠い工業デザインの道へ進んだ。 最近、奥山さんがヤンマーの農業機械をデザインしたというニュースを聞いた親類筋から、「本家の息子は鉄砲玉みたいに世界へ飛び出して帰ってこなかったけれど、地に足をつけて仕事をしているのが分かったと喜んでもらった」と笑顔が弾ける。
トラクターはビジネスパートナーで社長専用車
真っ赤な未来車のようなデザインに目が奪われがちだが、「細部に魂が宿る」との考えから、部品に工夫が凝らされ、農家への愛情が随所に息づく。 運転席に乗るためのステップや手すりの高品質を追求し、芸術作品のような仕上がりになった。。農家がトラクターと初めて接するときのわくわく感を重視するからだ。 窓ガラスをワイドにし、視界を広くした。50台の限定生産車には、革張りの特製座席をしつらえ、輸入高級車の雰囲気を醸し出す。さらに座席の近くにドリンクホルダーとともに、スマホを置く場所もセットした。 「農家の皆さんから、販路拡大のため、農作業中にも電話に出られるようにしたいという要望を聞いた。スマホを置く場所を確保したのは、いつでも電話に出てビジネスチャンスを切り開いてほしいから。機能的でゆったりしたキャビンで執務をしながら、商談も進めていく。このトラクターを社長専用車のように活用していただきたい」(奥山さん) 日本の農業が本格的グローバル競争時代を迎え、可能性と課題が交差する中、トラクターはビジネスパートナーであり、社長専用車にもなり得る。鮮烈なデザインでデビューした1台のトラクターが、農業機械はもとより、農業経営のあり方さえ一新するインパクトを秘めているようだ。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)