船に衝突するシャチ、復讐ではなく「ティーンエイジャーの遊び」だった、最新報告
シャチへの発砲事件も発生、「攻撃」「復讐」は避けて
こうしたシャチの行動を「攻撃」と表現したり、人間への「復讐」だなどと書き立てたりするのは、間違いであるばかりでなく、希少な動物を危険にさらすことになると、報告書は警鐘を鳴らす。2023年8月、ジブラルタル海峡を航行中の船舶に近づいてきたシャチに向けて乗組員が発砲した。保護活動家たちは、これを保護種に対する犯罪だと報告している。 「シャチの動機が復讐でないことは明らかです」と、ロット氏は言う。「人間は何十年もの間、シャチに復讐を誓わせるようなひどいことをしてきました。それでも野生のシャチが人を殺した記録はありません」とも付け加えた。 とはいえ例え遊びであってもシャチが船にぶつかってきたら恐怖を感じるのは当然だ。そこでジブラルタル海峡を航行する船に対し専門家は、シャチが出現しやすい場所を迂回することや、シャチが近づいてきたら速やかに遠ざかり、近くにいる他の船にシャチの位置を知らせることをアドバイスしている。 ダミーの船をけん引したり、舵を改良したりなど、シャチを傷つけずに船を守る方法も試験段階に入っている。 音でシャチを遠ざける実験も計画中だ。「『驚愕反射』を起こしてやれば、シャチは去ります」と、英スコットランドのセント・アンドリューズ大学で生物音響学を研究するトーマス・ゲッツ氏は言う。 ロット氏は、若者たちがやっていることならばいずれ終わると確信している。実際、2024年に入り、シャチが船を傷つけるケースは減っている。 1980年代、米国ワシントン州のピュージェット湾で暮らすシャチの間で、死んだサケを帽子のように頭にのせることが流行った。「この流行も、突然始まり、突然終わりました」とロット氏。 「当面の間は、専門家のアドバイスに従い、冷静に対処することです。そうすれば船乗りにとってもシャチにとっても万事うまくいくでしょう」と、ロット氏は助言する。
文=Melissa Hobson/訳=三好由美子