気候変動で人生が変わってしまう子どもたち。子どもの貧困とのつながりとは?
また、食料や水を求めて人が移動することからも問題が生まれます。 ケニアは東アフリカの中では比較的安定している国であるため、ソマリアやエチオピアから避難してくる人が多く、干ばつが始まって以来、難民キャンプは飽和状態となっています。狭い空間の中でコレラなどの感染症が流行し、予防接種を受けられていない難民の子どもが命の危険に晒されました。 そんな苦しい生活の中でも、叔母の支援により、なんとか学校に復帰したシャーリーンさんですが、登校してみるとクラスの様子は一変していたのです。貧困を理由に退学した子、家族の食い扶持を減らすために強制的に結婚させられた子、まだ10代にもかかわらず妊娠した子......。多くの友人たちが教室から姿を消していました。 「水がない」に端を発した生活の変化が、子どもの人生を大きく変えてしまったのです。
温室効果ガスを出さない子どもたちが、だれよりも気候変動の影響を受ける
ケニアを例に、気候変動による自然災害が子どもの教育や結婚など人生を左右する事柄にまで影響を及ぼしていることがわかりました。 さらに、温室効果ガスを、あまり出していない国の子どもたちが被害を受けているという現実があります。ケニアと同じく干ばつの被害を受けているソマリアのCO2排出量は全世界のわずか0.05%。先進国が出した温室効果ガスのツケを払わされているのは、このエリアに住む子どもたちなのです。
「気候変動が貧困層の子どもたちに被害をもたらすというのは日本でも同じ。夏の猛暑に苦しんでいるのは、エアコンをガンガン使っているわけでもなく、環境負荷の高い飛行機に乗って旅行しているわけでもない子どもたちです。異常気象を引き起こす気候変動と子どもの貧困の問題は、実はつながっています」とメザーズさん。
気候変動と子どもの貧困のつながりについて、榮谷さんは児童文学『八月のひかり』を紹介してくれました。この本は、作家の中島信子さんが日本国内のひとり親家庭を支援するフードバンクに取材をし、貧しい母子家庭の夏休みの様子を子どもの目線から描いたものです。 「暑い、暑い、もう暑くてたまらない」 エアコンは前に住んでいた人が、置いていったのがある。だから、お母さんはこの部屋を借りたと言った。でも、エアコンは寝る前の一時間だけしか使わない。どんなに暑くても、お母さんが帰るまで我慢だ。お母さんが帰ってくれば、台所のドアが開け放てる。そうすれば風がベランダから吹き抜ける。美貴は畳に転がって、夕飯を考えた。給食の献立の鳥肉のトマト煮が、食べたくてたまらなくなった。(『八月のひかり』(汐文社)より引用) この先の未来、子どもたちの生活はどうなってしまうのでしょうか? 今、温室効果ガスの排出量を抑え、加速する気温上昇にブレーキをかけようとする動きが世界中で起こっています。少しでも気候変動による被害を小さくするために、私たちもこれまでの"あたりまえ"を変えていかなければいけません。プラスチックごみの削減や節電、移動手段の検討など、個人でもできることはたくさんあります。これまでの日常を続けていては、加速度的に進む気候変動をくい止めることはできないのです。 気候変動による自然災害と隣り合わせの世界というのは、いつ日常がひっくり返ってもおかしくない世界であるということ。そのような世界においては、人々の連帯と共感力がより大切になってくると榮谷さんは言います。 「貧困について語るときに『本人の努力が足りないから』という自己責任論で片づけてしまうのはすごく危ないと思っています。 基本的人権や子どもの権利は、だれもが生まれながらに持っているものです。それに対して政府は責任を負い、セーフティーネットを張って人々を守る責任がある。それと同時に地域に根差したサポート体制も必要です。 東日本大震災のとき、仕事を辞めてボランティアに行った人たちがいましたよね。だれもが危機的な災害に見舞われてもおかしくない地球環境下において、困っている人に隣人として手を差し伸べるという市民としての共感や連帯が、これからますます大事になってくると思います」