自由と安全について 政治学者が先人たちの本をひもときながら考える―杉田 敦『自由とセキュリティ』永江 朗による書評
自由と安全。どちらも大切なのに、自由を捨てて安全を選ぶときがある。たとえばコロナ禍がそうだった。ぼくたちは行政が行動制限を命じることを望み、進んで「自粛警察」や「マスク警察」になった。感染症だけじゃない。ミサイルが飛んだ、軍事的緊張が高まったと聞くと、プライバシーさえ簡単に手放してしまう。 しかし、いま一度立ち止まって、自由と安全についてじっくり考えたい。本書は格好のガイドブックだ。政治学者が先人たちの本をひもときながら考える。取り上げるのはミルの『自由論』やホッブズの『リヴァイアサン』、ルソーの『社会契約論』など、タイトルぐらいはよく知られている古典から、フーコーの『社会は防衛しなければならない』なんてちょっとマイナーな本まで。 著者と編集者の対話がベースになっているのでわかりやすく読みやすい。それぞれの章末に記された日付は、今現在との関わりを意識させる。そう、古典は生きている。 選挙は答え合わせではないし、当選者への全権委任でもない、少数派の意見も大切にしようという著者の言葉がグッとくる。こんな時代だから自由にものを考えたい。 [書き手] 永江 朗 フリーライター。 1958(昭和33)年、北海道生れ。法政大学文学部哲学科卒業。西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。』『いい家は「細部」で決まる』(共著)などがある。 [書籍情報]『自由とセキュリティ』 著者:杉田 敦 / 出版社:集英社 / 発売日:2024年05月17日 / ISBN:4087213153 毎日新聞 2024年6月29日掲載
永江 朗