【兵庫県知事選】市民派・稲村和美前尼崎市長が語る「斎藤元彦県政では混乱が続くだけ」
■ 「斎藤の財政改革に当初は期待したが……」 「井戸さんは自治官僚のキャリアが長く、副知事を経て知事になり、20年も務められた。兵庫県政を熟知しているがゆえに職員は知事を忖度し、判断を絶対視するところがあったように思います。それは井戸さんのパーソナリティの問題ではなく、あまりにも長く中央官僚が知事を務める中ではぐくまれた兵庫県庁の組織文化でしょう。個人のパーソナリティや側近政治が原因となった斎藤さんの問題とは質が違います。 井戸さんは阪神・淡路大震災の復興という財政負担を抱えた中で就任しましたが、乱開発防止で買った土地(地域整備事業)が塩漬けになって負債が膨らんだり、ハコ物をいろいろ建てたりして、借金の多い財政になっていました。 その改革を財政課長の経験がある若い斎藤さんに期待したんですが……。斎藤県政の混乱に終止符を打ち、井戸県政に戻るのでもなく、今度こそ新しい一歩を踏み出すチャンスだと思っています」 ■ 「政治って人の機微の塊みたいなもの」 たとえば井戸知事時代に発表された県庁舎の建て替え計画。斎藤前知事はこれを凍結し、リモートワーク導入で出勤率4割をめざす方針を打ち出したが、職員たちの反発は強い。4割出勤では仕事が回らないうえ、災害時の拠点としての機能も低下するからだ。稲村は計画を見直し、建設費を抑えながら防災機能を持つ庁舎の整備を公約に盛り込む。井戸案でも斎藤案でもない新たな道を探るというわけだ。 「事業を見直す時はだいたい反発があるんですよ。反発を受けて案を修正し、バージョンアップしていく。自分がこうしたいとか、行政的に正しい、法的に正しいだけでは動かない。政治って人の機微の塊みたいなもの。いろんな人の思いやこだわりを踏まえて、形にしていくものです。反対する人を抵抗勢力だ、既得権益だと言うだけでは政治はできません」 尼崎市長時代も財政再建が最大の課題だった。公共施設の削減や事業の中止などで、反対する市民の声とも向き合ってきた。 「私たちは高度成長期の人口ボーナス期から人口オーナス、つまり減少期の政治をやっていかないといけない。昔は必要だった事業が、今の時代では見直し対象になることはいっぱいあります。尼崎の経験から学んだのは、ちょっと言い方を間違えると、ある時代の事業に熱心に取り組んだ人たちが、まるで全部間違っていたかのように受け取られるということ。否定せず、もしくは否定されたと受け取られないよう丁寧に対話をしないとボタンをかけ違えてしまう。それがどれだけ合意形成を阻むか」