残高10ドル以上の「USDC」ウォレットが6割増加──サークルの金融スーパーハイウェイ構想の現在地
ブラックロック、VISA、ロビンフッド…サークルの提携戦略
マサチューセッツ州ボストンに本社を構えるサークルは、世界の金融界をけん引する金融機関やクレジットカード会社、フィンテック企業と連携することで、USDCの普及拡大を図ってきた。なかでも、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)との戦略的パートナーシップは代表的だ。 今月にビットコイン現物ETF(上場投資信託)を米国で初めて上場させ、金融ビジネス誌を賑わせたブラックロックは、サークルの株主であり、USDCが安定的に米ドルに連動するためのカギを握る企業でもある。 USDCが米ドルと同等の価値を維持するため、サークルは現金の米ドルと短期米国債などで構成する準備金(ファンド)を設けているが、この裏付け資産を運用しているのがブラックロックだ。また、サークルとブラックロックは、USDCを含むデジタル通貨を活用して、既存の金融サービスを効率化する研究を進めている。 欧州、北米、アジア、中東・アフリカと、サークルはこの提携戦略をグローバルに広げている。クレジットカードのVISAとマスターカード、株取引アプリの米ロビンフッド(Robinhood)、配車サービスのスマートフォンアプリから始まり、スーパーアプリ化を進めるシンガポールのグラブ(Grab)、企業が簡単にオンライン決済を導入するためのサービスを展開する米ストライプ(Stripe)などに加えて、日本では昨年、SBIホールディングスとパートナーシップを結んだ。 ステーブルコインの法律が既に整備されている日本で、デジタル資産領域の事業基盤を固めてきたSBIと組み、USDCを日本市場で普及させる計画だ。
テザー vs サークル:ステーブルコインの覇権争い
米ドル・ステーブルコインのグローバル競争において、流通量の上では、テザー社が発行する「USDT」が先を走っている。コインマーケットキャップ(CoinMarketCap)のデータを見ると、USDCの流通量は現在、約255億ドル。一方、テザーのUSDTは950億ドルで、USDCの4倍近い規模だ。 数字の上では優位な立場を維持するテザーだが、2018年までの3年間、USDTの裏付け資産が不十分であると、米商品先物取引委員会(CFTC)から指摘を受けた過去がある。2021年には4000万ドルを超える罰金を支払った。 その後、テザーは裏付け資産に一時組み入れていたコマーシャルペーパーを米国債に替えるなどして、準備金ファンドの運用方法を改良してきた。昨年10月には、テザーが運用する裏付け資産(準備金)のデータを、リアルタイムに公開する計画を明らかにしている。 コマーシャルペーパーとは:企業が短期資金を調達を目的として、割引形式で発行する無担保の約束手形のこと。 一方、2年前に企業価値が90億ドルと報じられたサークルは、一度は断念した米国での新規株式公開(IPO)を進めていくと、今月11日に発表した。株式上場を行い、資金の調達手段を多様化し、事業の拡大をさらに加速させる狙いがある。 既存の金融機関や金融システムは今後、ブロックチェーン上で流通するステーブルコインを導入する動きを強めていくだろう。同時に、暗号資産(仮想通貨)を取引する市場や、ブロックチェーン上で展開する金融サービス(DeFi=分散型金融)において、ステーブルコインは既に日常的に利用されている。 「ビットコインETF上場」のニュースで始まった2024年、ステーブルコインの世界的な普及はどこまで広がり、アレール氏が目指す「インターネットの金融スーパーハイウェイ」はどれほど整備されていくのだろうか? |文:佐藤 茂|写真:ジェレミー・アレールCEO(多田圭佑)
CoinDesk Japan 編集部