アルツハイマー病の夫と付き添う妻の「閉塞した毎日」を打ち破った「思わぬ転機」とは
「また外国に行ってみたい」
札幌滞在後、私たちは東南アジアのタイを旅行しました。タイは、教授時代の晋がトランジットなどでよく訪れた国です。懐かしい場所を訪ねることで脳が刺激され、認知症の「回想療法」になる、と内科医の高橋貴美子さんに勧められたのですが、それまで無気力だった晋が、 「また外国に行ってみたい」 と言い出したのは何よりも嬉しく、思い切りました。 もし、これからも旅をするのであれば、交通の便は沖縄より栃木のほうがいい。 「冬の栃木は寒いから、春になったら帰ろう」 そう申し合わせて上田先生の了解も得、2008年4月1日、私たちは飛行機で沖縄を後にしました。
思わぬ転機
タイへの旅行後、転機は思わぬところからやってきます。医学書院が発行している「医学界新聞」から、インタビューの依頼が舞い込んだのです。 私たちがJCMAの催しで浦河町(北海道)へ行ったことはすでに書きましたが、その分科会の会場となったのが「ベてるの家」という福祉施設でした。その「べてるの家」の理事・向谷地生良さんから「医学界新聞」編集部に紹介があったそうです。 以前ならインタビューなど断っていたかもしれませんが、そのときの私たちに迷いはありません。すぐに引き受けました。 『「アルツハイマーという病気の認識が、がらりと変わった」…読者を驚嘆させたインタビューで認知症の東大教授が語った「深い話」』へ続く
若井 克子