アルツハイマー病の夫と付き添う妻の「閉塞した毎日」を打ち破った「思わぬ転機」とは
「漢字が書けなくなる」、「数分前の約束も学生時代の思い出も忘れる」...アルツハイマー病とその症状は、今や誰にでも起こりうることであり、決して他人事と断じることはできない。それでも、まさか「脳外科医が若くしてアルツハイマー病に侵される」という皮肉が許されるのだろうか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 だが、そんな過酷な「運命」に見舞われながらも、悩み、向き合い、望みを見つけたのが東大教授・若井晋とその妻・克子だ。失意のなか東大を辞し、沖縄移住などを経て立ち直るまでを記した『東大教授、若年性アルツハイマーになる』(若井克子著)より、二人の旅路を抜粋してお届けしよう。 『東大教授、若年性アルツハイマーになる』連載第27回 『「自分のありようが白日のもとにさらされた」…アルツハイマー病に侵された夫が初めて妻に明かした「心の内」』より続く
講演行脚の日々と、気づかされたこと
人々の中へ行き Go to the people 人々の中に住み Live among them 人々を愛し Love them 人々から学びなさい Learn from them 人々が知っていることから始め Start with what they know 人々が持っているものの上に築くのだ Build on what they have 社会教育運動家として知られた中国人・晏陽初の詩「Go to the people」の一節です。 戦後、中国共産党と異なる道を選んだ晏は、おもな活動の場をフィリピンに移すことになりましたが、キリスト者として最後まで後進地域の発展に尽くし続けた人でした。「Go to the people」はJCMAの「座右の銘」ともいえる詩で、晋も大切にしていたのをよく覚えています。 アルツハイマー病と診断され、晋も私も「人々の中へ行く」ことにはすっかり臆病になっていました。ふたりだけの時間が増え、正直に言えば、気づまりな日々が続いていたのです。笑うことすら忘れていました。ですが札幌での経験は、「Go to the people」へと、私たちの背中を後押ししてくれたような気がします。