次期韓国大統領選に意欲? パン・ギムン氏の国連事務総長としての評価は
「国連」そのものの限界
ただし、批判の内容をみていくと、そこにはパン氏個人の問題というより、国連事務総長というポストがもともと抱えている限界が露呈したに過ぎないものもあります。「リーダーシップの欠如」批判は、その典型です。 先述のように、国連は「世界政府」ではなく、加盟各国間で利害対立がある一方、国連は加盟国の主権を尊重せざるを得ない立場にあります。冷戦時代も、東西両陣営がお互いに拒否権を応酬したことで安保理は機能不全に陥り、歴代の事務総長は大国に振り回され続けました。 そのため、1992年に事務総長となったガーリ氏は、冷戦終結後の世界で国連がより大きな役割を果たすことを目指し、唯一の超大国となった米国との協力のもと、ソマリア内戦などへの軍事介入を主導しました。しかし、一方的な介入はむしろソマリア情勢を悪化させ、国連部隊は早々に引き上げざるを得なくなりました。1期で退いたガーリ氏の後を受けたアナン前事務総長が、国連が前面に立つことより、各国の利害調整に腐心したことは、いわば必然だったといえます。 パン氏も基本的にはアナン氏と同様、各国間の調整を優先させたといえます。しかし、中露の台頭やイスラム過激派の活発化などを背景に、アナン氏の時代と比べて、世界全体で緊張は高まり、各国間の利害関係は複雑化する一方です。シリア、ウクライナ、南シナ海などをめぐり、安保理で五大国が対立する状況で、そもそも国連事務総長が果たせる役割は大きくないのです。退任間近のパン事務総長がみせた「リーダーシップの欠如」は、国連そのものの限界を改めて示すものといえるでしょう。 余談ですが、韓国国内ではパン氏を次期大統領にと推す声があり、本人も否定はしていません。事務総長経験者を母国の政治家が国内政治に担ぎ出そうとすることは、アナン氏をはじめ他の経験者の場合もありましたが、実現したことはありません。国連の規定で、事務総長経験者が退任から間もない時期に責任あるポストに就くことが規制されているからです。混乱する韓国政治を背景に、パン氏がどんな判断を下すかは、その品性や韓国政治のあり様を示すものになるかもしれません。
----------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト