要注目の福島の新司令塔・大関友翔。育った川崎での悔しさ、感謝を胸に恩師・寺田周平監督の下で示すロス五輪世代の輝き【インタビュー1】
支えてくれた脇坂泰斗や中村憲剛らの言葉
大関は高校3年生であった2022年6月に同じく今季福島にレンタル移籍しているDF松長根悠仁とともに早々にトップ昇格内定を勝ち取り、川崎での2023年のルーキーシーズンを迎えた。 しかし、中盤は川崎の最激戦区で、SBの松長根、ドリブラーの名願斗哉(←履正社高)、そしてひと足先にプロ契約を交わしていたユース出身のCB高井幸大ら同期が次々にプロのピッチに立っていく傍らで、大関にだけチャンスが訪れなかった。 紅白戦や戦術練習でさえも人数の関係から外で見ている時間が短くなかった日々。連戦を戦うチームでは練習試合の数も少なく、なかなかアピールにつながらない。夏場に組まれたドイツの名門・バイエルンとの親善居合では後半途中にようやく出番を勝ち取り、これぞ大関というプレーも垣間見せたが、その後の公式戦出場にはつながらなかった。 傍から見れば高卒1年目とはいえ、心が折れてしまいそうなシチュエーションだ。それこそ幼き頃からチームの中心で、川崎ユースでも1年時からピッチに立っていたというのだから、なおさらだろう。しかし、大関は周囲の支えがあったからこそ、試合に絡めない毎日でも前だけを見続けられたという。 「同期が次々に試合に出ているのに自分だけ絡めないのだから、もどかしさや焦りはありました。正直、キツかった部分はありましたね。だけど、スタッフの方、それこそ(寺田)周平さん(現・福島監督)、ミツさん(戸田光洋コーチ)、ユウキさん(吉田勇樹コーチ/現・育成部コーチ)らに自主練をいつも付き合ってもらい、悔しい想いを吐かせてもらったりしていました。そうやって背中を押してもらえたからこそ、昨年1年はしっかり土台を作るために、そして試合に出ることを目標に、ブレずにやり続けることができました」 さらに頼れる先輩たちからのアドバイスもあった。 「同じポジションのヤスくん(脇坂泰斗/現・川崎キャプテン)には、『俺も1年目になかなか試合に出られなくて大変だった』という話を聞かせてもらいましたし、たまに練習を見に来てくれるケンゴさん(中村憲剛)にも『今、どれだけ積み上げられるかでこの先が変わってくる』というアドバイスをいただき、本当に先輩たちの言葉ってデカいなと実感しました。それに寮の先輩である(GK早坂)勇希くんや(DF佐々木)旭くんらもご飯に誘ってくれ、話を聞いてくれました。 ふてくされること? だから、それはなかったですね。そんな時間があるなら自分を変えようと、本当にポジティブに、試合に出るためだけに過ごし、やれることが増えていっていると実感できる1年でもありました。バイエルンとのゲームや、練習試合でも自分のプレーが出せる自信と言いますか、手応えはありましたが、それをなかなか試す機会を掴めなかったのは自分の力不足。 ただ今の自分があるのは、改めてあそこまで練習に付き合ってくれたスタッフの方々や先輩たちのお陰ですし、オニさん(鬼木達監督)も選手全員が上がるまで最後までずっと練習を見てくれているんです。オニさんは本当に僕らのことを“見て”くれる監督で、だからこそ見捨てられていないという安心感もありました」 そして大関の努力はようやく報われる。シーズン最終戦、ACLグループステージの第6戦として臨んだ韓国での蔚山現代戦。 すでにグループステージ突破を決め、3日前には天皇杯制覇を果たしていた川崎は、数人の若手を組み込んで蔚山戦に向かうと、試合終盤、ベンチで出番を待っていた大関に声がかかる。 77分、ついに迎えた公式戦での“川崎デビュー”だった。 ピッチに立てた時間は短い。それでも1年間の取り組みが肯定された瞬間だ。鬼木監督からも試合後のフィードバックとして「良かったよ」と声をかけてもらった。そして「やってきて良かった」そう感慨深さを抱いていた大関の下には、シーズン終了後ひとつのオファーが舞い込んだ。 幼少期に応援していた川崎を当時率い、今は福島のテクニカルダイレクターを務める関塚隆氏、玉手淳一強化部長、そして川崎でコーチとして指導を受けていた寺田“監督”からの誘いだった。 経験を積むためにも――。 川崎での1年目で忘れられない得難い経験をした大関は、さらなる成長のために新天地・福島へと旅立ったのである。 第2回に続く ■プロフィール 大関友翔 おおぜき・ゆうと/2005年2月6日、神奈川県生まれ。真福寺FC―FC多摩ジュニアーFC多摩Jrユース―川崎U-18―川崎―福島。新時代の司令塔。トップ昇格した川崎ではなかなか出番を掴めなかったが、今季レンタルで加わった福島では中盤の欠かせない存在として活躍を続ける。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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