【仮面ライダーヒロイン名鑑】『仮面ライダー龍騎』森下千里「"ひょっとこ"のようなキス顔はさすがに恥ずかしかったです(笑)」
――特に印象に残っているエピソードは? 森下 やはりオーディションの時に台本を読んだ、登場回(第30話)ですね。とにかくめぐみはそそっかしいんですよ。お茶を頼まれれば茶筒を渡し、運転手を任されれば車内のハエに気を取られて事故を起こす。食事を頼まれれば何もないところでつまづいて食器ごとぶちまけてしまったり。見ていて呆れるほどの演出が自分でも楽しかったです(笑)。 ――めぐみは腕っぷしも立つんですよね。 森下 そう。ガラの悪い男たちを一瞬でやっつけるんです。真司役の須賀(貴匡)くんからは、「一見抜けているんだけど、じつはすごく強いなんて、キャラが立ちすぎてる、ズルい!」ってうらやましがられました(笑)。ただあの回は演じていて、ちょっと恥ずかしかった箇所もあって。昔、憧れていた男性とデートをするシーンなんですけど、湖のど真ん中、ボートの上でウエディングドレスを着て、相手にキスをせがむんです。それがちょっと、ね(苦笑)。 ――というと? 森下 そのキス顔がまるで"ひょっとこ"みたいなんですよ(笑)。しかも全方位から思い切り照明を当てられ、スタッフの皆さんに見守られて。さすがにあれだけは「わ~! 恥ずかしい~、早く終わって~」って思いました(笑)。 ――それにしても、後に雑誌やテレビで度々、クールな美女を演じる森下さんを考えたら、びっくりするほどの三枚目なキャラクターですよね。 森下 キレイな女性として見てもらえるのは嬉しかったですけど、もともと私はそんなタイプではなく、むしろ真逆。なのでストレスになることも多かったんです。それだけに、めぐみのことを思い出し、またあんな楽しいキャラクターをやりたいと思っていましたよ。 ――『仮面ライダー龍騎』を通じて学んだことは? 森下 なんといってもチームワークの大切さです。キャスト、監督をはじめ、カメラマンさん、照明さん、衣装さんなど、本当にたくさんの方々がいらっしゃって、それぞれがいい作品にしようと全力を注いでいる。1年間という時間をかけてみんなとの関係性を丁寧に築きながら、ひとつの作品を作り上げる大変さ、面白さは本当に勉強になりましたね。 ――森下さんは2019年末に芸能界を引退。現在は、宮城県石巻市を拠点に政治活動をされています。 森下 石巻市は、石ノ森萬画館があるなど、『仮面ライダー』の原作者である石ノ森章太郎先生のゆかりの地なんです。私のデビュー作が『仮面ライダー龍騎』であることを考えると、なんだか不思議なご縁を感じずにはいられないです。 ――放送終了から20年以上が経ちましたけど、『仮面ライダー龍騎』にご出演されていたことを言われることはあります? 森下 もちろんです。石ノ森萬画館では当時の映像のダイジェストが随時流れているんです。それをご鸞になって私を知ってくださる方もいますし、あと宮城県に限らず、当時、見ていましたと言ってくださる方はすごく多いです。森下千里ではなく、浅野めぐみとして、サインを求められることもあります(笑)。いまなおここまで気にかけてくださるなんて本当にすごい。つくづくオーディションの時に勘違いをしてよかったなと思います(笑)。 ――現在の活動で、『仮面ライダー龍騎』での経験が生きていると感じることはあります? 森下 先ほどのチームワークの大切さを生かしていることはもちろんですけど、自分が現場にいたからこそ、石ノ森先生の偉大さ、そしてエンタメの力の大きさを実感するようになりました。石ノ森萬画館に全国、いや世界中から大勢の方々が訪れてくれるんです。素晴らしい作品が人の心を動かし、活気が生まれ、それが地域の活性化にもつながっていく。自分が芸能界にいたからこそ、それらがよりリアルに感じます。もちろん私自身のエネルギーにもなりました。私も『仮面ライダー龍騎』に出演できたことを誇りに、大勢の方々に元気を与える活動をしていきたいと思いますね。 ●森下千里 Chisato MORISHITA 1981年9月1日生まれ 愛知県出身○2002年『仮面ライダー龍騎』で女優デビュー。2019年に芸能界を引退。2023年、自由民主党宮城県衆議院比例区第一支部長に就任 取材・文/大野智己 撮影/荻原大志 ©石森プロ・東映