ハンドルで操る「悪役プロレスラー」 チャージャー/チャレンジャー ダッジのマッスルカー2台を比較(1)
ステアリングホイールで操れるプロレスラー
川が削った地形に合わせて、道は緩やかにカーブを描く。カリフォルニア州のドライブルートのように、ヘアピンはない。チャレンジャーにはピッタリだ。 アメリカン・ステーキのように大味なフォルムだが、走りはずっと繊細。足取りが軽いとはいえないものの、驚異的なグリップ力があり、シャシーバランスは悪くない。 1.9t以上ある車重は常に感じられるものの、特別なホイールとタイヤを履いたオプション・パッケージは、強力な392ヘミ・ユニットを受け止めるべく設定されている。長打力のスラッガー的ではあるが、丁寧に癖玉を打ち返すこともできる。 6速MTのシフトレバーも大味。アメリカのレストラン・チェーン店で提供されるような、呆れるほど大きいナイフに似ているかも。有り余るパワーを適切に路面へ伝えるには、相応の努力が必要。8速ATの方が、性格には向いている。 右腕でタイミングを図りながら、3速までシフトアップ。右足を倒しトルクのビッグウェーブへ乗ると、他では味わえない充足感に浸れる。 極太のフロントタイヤを操るステアリングは、予想通り鈍感。とはいえ最新のBMWでも、同じような不満は感じるだろう。程度の違いはあるとしても。 あやふやだった1970年代のマッスルカーと比べれば、反応は遥かに正確。ドライバーが求めれば、ちゃんと応えてくれる。ワダチで右往左往することもない。ステアリングホイールで操れるプロレスラーと表現しても、違和感はない。
悪魔的なスーパーチャージド・ヘルキャット
ボディは、ちょっと誇張された印象を伴う。しかし、フォルムにはカリスマ性がある。路面へ低く構えた筋肉質な造形で、フロントマスクが目の合う者を威嚇する。悪役レスラーのように。 劇場感はスーパーカーにも迫るが、排他的な雰囲気はない。友だちになれそうな、不思議な親しみやすさも漂わせる。 3代目チャレンジャーと、7代目チャージャーへ10年前に設定が始まった、ヘルキャットのエンジンは悪魔的だ。それ以前のV8エンジンも6.4Lでパワフルだったが、6.2Lヘミ・ユニットは、スーパーチャージャーで加給すれば圧巻の707psを発揮した。 レッドアイやデーモンなど、パワフルな特別仕様はいくつか登場した。しかし、最も記憶に刻まれているのは、ヘルキャットだと思う。直線加速の勢いは半端ない。アポロ計画で月を目指した、サターン・ロケットのようだった。 このヘルキャット・エンジンは、カナダ・トロントからクルマで40分ほどの場所にある工場で作られていた。でも、アメリカ人は自国の象徴だと考えている。 希少性も高く、アメリカでは盗難率も高い。最近の統計では、4ドアのチャージャー・ヘルキャットは、一般的なクルマより60倍も盗まれる可能性が高いとか。犯人は盗難車を分解し、部品毎に販売されてしまうそうだ。 この続きは、チャージャー/チャレンジャー ダッジのマッスルカー2台を比較(2)にて。
AUTOCAR UK(執筆) 中嶋健治(翻訳)