東大教授が進める「驚異の脳プロジェクト」の正体…たった「数%しか使っていない」と言われる脳を「極限まで使ったら」どうなるのか
累計43万部を突破し、ベストセラーとなっている脳研究者・池谷裕二さんによる脳講義シリーズ。このたび、『進化しすぎた脳』 『単純な脳、複雑な「私」』(講談社ブルーバックス) に続き、15年ぶりとなるシリーズ最新作『夢を叶えるために脳はある』(講談社)が刊行された。 【写真】「脳」は、いったいなんのためにあるのか…その「答え」 なぜ僕らは脳を持ち、何のために生きているのか。脳科学が最後に辿り着く予想外の結論、そしてタイトルに込められた「本当の意味」とはーー。 高校生に向けておこなわれた脳講義をもとにつくられた本書から、その一部をご紹介しよう。 ※ 本記事は、『夢を叶えるために脳はある』(講談社)の読みどころを、厳選してお届けしています。
脳と人工知能を融合させてみる
僕はいま、脳だけでなく、人工知能(AI)の研究も、同時に進めている。そうそう、「人工知能」という単語は、どちらかというとメディア用語で、僕ら研究者はあまり使わない。正式には「機械学習」と言う。 要するに、コンピュータが学習するということだね。もちろん、脳も学習する。つまり、学習する脳になぞらえて、学習する機械という、対比させた言い方なんだ。両者はなにが似ているか、なにが違うか、あるいは両者がコラボしたらなにができるか、そんな研究をしている。 たとえば、脳の中に人工知能のチップを埋め込んだらなにが起こるだろう? ー 1回見たものは全部覚えられる。 とかね。そんなSFめいたことが起こるかもしれないよね。ほかにどんなことが実現できるかな? 僕も研究を始めたばかりだから、ぜひアイデアがあったら教えてほしい。実現可能なものならば僕の研究室で実現してみたい。 ー 自分が経験していないことの記憶を埋め込む……。 なるほどね。それはいいね。世界の行ったことのない国を旅行する体験ができたらいいよね。あるいは達人の技とか、熟練の匠とか。野球部だったら、卓越した選球眼や、バッティングのセンスを、極力少ない練習量で、身につけるとかね。 僕らのこの研究は「脳AI融合プロジェクト」という名称で、プロジェクトの標語はこう謳っている。 ---------- 脳にAIを埋め込んだら何ができるAIに脳を埋め込んだら何がおこる 脳をネット接続したら世界はどう見える たくさんの脳を繋げたら心はどう変わる せっかく脳を持って生まれてきたのだから 脳を目一杯使い込みたい 未知なる「知」に戯れる童心と憧心 [脳AI融合プロジェクト]https://ikegaya.jp/erato ---------- プロジェクトを進めるにあたって究めたい問いは、この標語にあるようなことだ。 こうした研究によって、「脳は何%使われているか」という、例の難問にほんの少し近づくことができるかもしれない。なぜなら、人工知能を使って脳の機能を押し上げることができれば、脳を能力の目一杯利用できるようになるかもしれないから。 もうこれ以上は無理という限界まで行き着けば、脳の潜在的な能力の上限値が推定できる。そこから逆算すれば、普段は何%使っているか、にも答えが与えられる可能性が出てくるわけ。 さらに連載記事〈じつは「絶対音感は特別な人だけ」の能力ではなかった…! 脳を擬似カラー化してわかった「衝撃の画像」〉では、脳の存在意義について語ります。
池谷 裕二(東京大学薬学部教授)