「半壊の壁」「境界線の明暗」の解決を 被災者生活再建支援法20年
同じ災害、被害で支援格差が生じる「境界線の明暗」
被災者生活再建支援制度に関する今回の知事会の提言の中で、岡本弁護士が対象拡大とともに重要な提言だと指摘するのが「一部地域が適用対象となるような自然災害が発生した場合には、法に基づく救済が被災者に平等に行われるよう、全ての被災区域を支援の対象とすること」という項目だ。岡本弁護士は「境界線の明暗」と呼ぶ。 被災者生活再建支援制度の支援は、自然災害によって「10世帯以上の住宅が全壊した市町村」「100世帯以上が全壊した都道府県」など、一定の要件を満たした自治体に適用される。このため、例えば今年6月の大阪府北部の地震では、全壊が10棟を超えた大阪府高槻市だけが制度が適用され、他の市には適用されなかった(その後、大阪府が不公平感をなくすために高槻市以外の自治体の被災者にも、同等の支援金を支給する方針を示した)。 また、岡本弁護士が平成30年7月豪雨(西日本豪雨)における制度適用実態を調査したところ、10月9日時点で支援法は12府県内の88市町村に適用されていた。しかし、例えば岐阜県の適用は関市のみで全壊世帯のある高山市に適用されていないなど、被害の実態は制度の支援対象になっているのに、自治体が適用外のために対象外となっているケースが多く確認できたという。 「同じ災害で同様の被害を受けているのに、支援格差が生じるのは問題。行政区画ごとに適用を決める支援法の施行令1条を改正し、『一災害一支援制度』とするべき。その点から見ても、今回の知事会の提言のこの部分は重要だ」。岡本弁護士は強調する。
より良い被災者生活再建支援制度のために 「災害ケースマネジメント」の考え方
「一般的に自然災害等によって生じた被害に対して個人補償をしない、自助努力によって回復してもらうということが原則になっている」「私有財産制のもとでは、個人の財産が自由かつ排他的に処分し得るかわりに、個人の財産は個人の責任のもとに維持することが原則」――。阪神淡路大震災後、当時の村山富市首相は、住宅再建支援を求める声に対し、このような発言をしている。こうした従来の考え方を突破してできた「被災者生活再建支援制度」が、復興に果たしてきた役割はとても大きい。 しかし、20年の間に、さまざまな自然災害に見舞われてきたことで、制度の改善のポイントのようなものが見えてきた。今回の知事会の提言について、岡本弁護士は「ようやく『半壊の壁』と『境界線の明暗』というところに言及してきた。これを法改正につなげる第一歩にしてほしい。その時に『災害ケースマネジメント』の概念も取り入れるべき」と提案する。 災害ケースマネジメントは、2016年2月に日本弁護士連合会(日弁連)が発表した意見書に盛り込まれたもので、「被災者を救済するため、被災者一人ひとりの被災の実態と向き合い、住家被害判定(罹災証明)だけでなく生活基盤全般の被害状況をきめ細やかに個別把握し、金銭給付の拡充(家賃補助等)はもとより、これにとどまらない人的支援(生活再建支援員の配置等)も包含したオーダーメイドの支援策」のことだ。 岡本弁護士は、「簡単に言うと一人ひとりの人間の被災に着目するということ。ひとことに被災者といっても、それぞれ置かれた状況は異なるし、復興のどの段階かによって必要な支援も異なってくる。修繕制度の拡充や家賃補助制度の導入など金銭的支援はもちろんのこと、弁護士や保健師、ソーシャルワーカーなどによる見守り支援などのメニューを盛り込むことが必要だ」という。 被災者を支援するしくみとしては、今回の被災者生活再建支援法のほかに、避難所開設や食料などの提供などの根拠となっている災害救助法、災害で死亡した遺族に弔慰金を支払う災害弔慰金法、災害によって住宅ローンや事業性ローンなどの債務を弁済することができなくなった場合などに一定程度の財産を残したまま債務を減免する自然災害債務整理ガイドラインなどがある。岡本弁護士は「最終的には、これらをすべて統合して、災害直後の応急対応から復興にいたるまで、被災者が豊富な支援メニューから自分に適した支援策を選ぶことができる『生活再建基本法』のようなものに発展させていくことが望ましい」と話している。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)