【脱獄中と思しき写真入手】有罪判決の “美しき元かけ子”が語る「ルフィ一味の実態告発」を読み解く
◆〈「脱獄を狙っていた」など特殊詐欺グループ「ルフィ一味」の実態告発を行ってきた元かけ子・山田季沙被告の判決が3月上旬に下された。自身の罪を深く反省し、グループの活動について3万4000文字を超える手記を書くなど、組織の実態解明に尽くしている山田被告。しかし、その内容には矛盾点も存在する。特殊詐欺グループの実態を取材するノンフィクション作家・水谷竹秀氏が切り込む〉 【画像】これも脱獄計画の一部か…不調を訴え、病院へ向かった今村磨人被告「現場写真」 3月5日午前11時過ぎ、東京地裁第429号法廷。ドアが開くと、制服姿の職員が現れて敬礼をした。その後ろから黒いスーツ姿の女がきびきびと歩いてきた。弁護側席に着いて手錠と腰縄を外され、長椅子に座った。 女は腰まで伸びた髪を後ろで束ね、白いマスクをつけている。緊張しているのか、顔が少し赤らんでいた。坂田威一郎裁判長から「被告人は証言台に出てきてください」と伝えられると、女は証言台に立った。 「名前はなんと言いますか」 「山田李沙です」 とてもはっきりした口調が、印象的だった――。 山田李沙被告(27)は、日本各地で相次いだ強盗事件で「ルフィ」などと名乗り、フィリピンを拠点に犯行を指示した疑いがある特殊詐欺グループのメンバーである。’23年1月に東京都足立区の高齢者宅で起きた強盗未遂事件では、かけ子として被害者の情報を指示役に提供したとして、強盗予備、住居侵入などの罪に問われ、この日の判決公判では懲役1年2月(求刑1年6月)を言い渡された。 量刑の理由で坂田裁判長は「二度と犯罪はしない旨を述べるなど反省の情や更生の意欲を示している」などと説明したが、山田被告の服装はその気持ちの表れなのか、黒いジャケットに黒いスカートを穿き、靴下も黒に統一していた。 証言台に立つその姿を傍聴席から見ていた私は、つい1ヵ月前にルフィ事件の取材で訪れたフィリピンでの出来事が脳裏をよぎった。ある日本人関係者から、山田被告にまつわる“意外なエピソード”を聞いていたからだ。 「フィリピンの収容施設にいた山田氏は、日本に強制送還される直前、洋服とメイク道具を外部の人から差し入れしてもらっていました。テレビに映るのを意識して、ダサい格好じゃあ帰れないからと。先に強制送還された今村被告(磨人・39)たちが大きくテレビで取り上げられたためです」 フィリピンで逃亡生活を続けていた山田被告は、昨年1月に首都マニラで拘束され、入国管理局収容施設へ移送された。同月下旬から日本の報道陣が収容所に押しかけた影響で、収容者との接見が一時的に禁止されたが、ほとぼりが冷めると外部からの差し入れは認められるようになった。そこで山田被告は、外部の知人に頼んで、衣類などを調達してもらったというのだ。 3月半ばに日本へ強制送還された山田被告は、案の定、到着した成田空港で報道陣のカメラに晒された。ピンクのシャツに白いパーカーを羽織り、耳にはピアス。眉もくっきり綺麗に整え、メイクをばっちりしていたのだ。だから法廷で見た山田被告のスーツ姿にも、裁判官が言及した「反省の色」というよりは、彼女の自意識が滲み出ているような気がしたのだ。 この日は判決文に耳を傾け、最後に裁判官から控訴期限などについて伝えられると「はい」と答えるだけだったが、これまでの公判では興味深い証言を繰り返していた。 山田被告が収容されていた入国管理局のビクタン収容施設には、日本人だけでなく、中国人や韓国人、欧米人など、入国管理法に触れた外国人約200人が収容されている。山田被告は強制送還されるまでの2ヵ月間、そこで生活をしていた。その当時の様子を、公判ではこう振り返った。 「殺人犯が自由に包丁を持っていた。韓国人による殺人や中国人による暴動も起きて、かなりヤバいところに来たと思った」 私はかつて「日刊まにら新聞」という邦字紙で記者として働いていた。その10年超にわたる期間、収容施設にいる邦人収容者に面会をするため、頻繁に足を運んだ。中にも何度も入っているが、収容者が自由に包丁を持ち歩いている光景を目にしたことはない。暴動は1回だけだ。 山田被告は収容所内での食事についても、「食料の配給はあるが、奪い合いや食中毒が頻発するために口にすることができなかった」と説明しているが、これも実態とはかけ離れている。食料の奪い合いなど聞いたことがないし、食中毒が頻発しているなら、収容者が外部の人間を通して告発しているだろう。 これらの証言を1つ1つ検証していくと、山田被告は自身がいかに劣悪な環境に置かれていたのかという点を強調し、「被害者意識」が強いように思われるのだ。ただ、グループ幹部の渡辺優樹被告(39)が脱走を計画したと明かした山田被告の証言には、一定の説得力がある。 それは同じ幹部・今村磨人が収容所の外にある病院で、検査を受けた時の写真を私が入手しているからだ。時期は強制送還される半年ほど前の’22年7月。場所は収容施設から南に約10キロ離れた病院で、写真には、今村がベッドに横たわり、エコーのような検査をしている姿が映し出されている。検査費用3300ペソ(約8800円)を支払った領収書の写真もある。特殊詐欺で高齢者から騙し取ったカネを使ったのだろう。 収容者が施設から外出を認められるのは、公判に出席するために裁判所へ行く場合と通院の2パターンだ。いずれも、施設の職員数人に付き添われるのだが、その道中で脱走を図る収容者が絶えない。入国管理局幹部が語る。 「つい先月も、ヨルダン人の男性が裁判所へ行った際、『トイレに行く』と言って、職員たちの隙を見計らって逃げ出した。その後に捕まえたが、外国人収容者によるこうした脱走未遂はたまに起きる」 結局、今村は収容施設に戻ったようだが、隙を見て脱走を図ろうと計画していた可能性はあるだろう。日本の常識では考えられないフィリピン入国管理局収容施設の実態–––––。その一端を垣間見せてくれた山田被告の法廷証言は、現場を知る私にとっては突っ込みどころが満載である。 取材・文・PHOTO:水谷竹秀 ’75年、三重県生まれ。『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』。ウクライナ戦争など世界各地で取材活動を行う
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