社説:フリーランス新法 安心して働ける環境整備を
企業などの組織に属さずフリーランスとして働く人を、不利な取引から守る新たな法律が、きのう施行された。 フリーランスは、仕事を発注する側に比べて立場が弱いことが多く、不利な契約や無理な発注が横行する実態が問題になっていた。「多様な働き方」の土台として、新法による実効性ある環境整備を進めねばならない。 フリーランスを「特定受託事業者」と位置付けた。業務委託をする事業者に対し、仕事の内容や報酬額を書面やメールで明示し、仕事の成果物を受け取ってから60日以内に報酬を支払うことを義務化している。 報酬の不当な減額や買いたたきも禁じる。下請法の対象外だった資本金1千万円以下の発注事業者にも適用される。 また、フリーランスが育児や介護を抱えている場合に発注者が配慮すべきことや、ハラスメントについての相談体制の整備も求める。 スキルや知識を生かし企業などと直接契約して報酬を得るフリーランスは幅広い産業分野にわたる。近年は食事宅配などの分野に広がり、「スポットワーク」や「ギグワーク」と呼ばれる単発・短時間の働き方も増えている。 無理な発注や報酬の不払い、減額などの問題が起きても泣き寝入りを強いられる事例が少なくない。公正取引委員会の調査に答えたフリーランスのうち、約70%が報酬を一方的に決められた経験があると答えている。 政府は法施行後も十分な実態調査を続け、安全網の充実を講じる必要がある。 気になるのは関係者の間で新法の認知度が低いことだ。公取委の5~6月の調査では、フリーランスの76・3%、発注側の企業も54・5%が新法の内容を知らないと答えている。 経済団体や労働団体と連携して周知徹底を急ぐ必要がある。 フリーランスの間には、新法が働き方の実態に対応できるかという疑問の声もある。 発注元の企業に日常的に「通勤」、「常駐」して仕事を請け負う「常駐フリー」も少なくない。実際は雇用労働者に近いのに、契約条件などに問題があっても声を上げにくいといった指摘がある。 業務の形態や指揮、権限などの実態に応じた法的保護が求められよう。 フリーランスは雇用保険が適用されず、厚生年金に加入していない。俳優など芸能関係者の労災保険の特別加入制度ができたが、保険料は全て自己負担だ。社会保障面の整備はさらなる課題といえる。 業務によっては、労災保険料を発注元が負担する必要もあるのではないか。 近年は定年後に業務委託契約などで働く人も少なくない。誰もが安心して働き続けられる環境作りが不可欠だ。