花王が実践する仕事と介護の両立支援。カギは「当事者の声」と「啓発」
調査で見えた「心理的負担」「時間的負担」「経済的負担」それぞれに対応
――三つの課題に対して、それぞれどのような支援策を用意されたのでしょうか。 荒川:まず「心理的負担」に対しては、周囲に相談できる相手がいない、職場でオープンにしづらいといった声に対応するため、外部支援機関による相談窓口を開設しました。介護は長ければ10年以上におよぶ場合もあり、見通しが立てにくいところがあります。今でこそ在宅勤務などの制度がありますが、当時は毎日出社することが前提。仕事と両立する時間を捻出してどのように効果的に活用すればいいのか、といった悩みを専門知識のある第三者に相談できるようにしました。あわせて、人事担当者向けの「介護相談対応マニュアル」を作成し、各勤務地の人事担当者が一次相談窓口として社員のサポートをできる体制も整えました。 また、2013年には「介護両立ハンドブック」を作成。介護の基礎知識や状況に応じた対応例、国・行政や会社の支援制度・サービス情報がまとまった1冊です。今年10年ぶりに全面リニューアルをして、介護を担う社員本人とその上司とのコミュニケーションをさらに円滑に進めるための手引きも加えて、日頃から職場で役立ててもらうことをめざしました。
荒川:「時間的負担」については、短時間・時差勤務、フレックスタイム制や在宅勤務制度などは以前から用意していました。2022年には、一定の条件のもと、やむを得ない事情がある場合に遠隔地での常時在宅勤務を認める「遠隔地勤務」制度を導入しました。 他にも、当社では介護休職を法定水準である93日を超えて、最長1年間・最大3回まで分割して取得できます。看護・介護特別休暇は、時間単位で最大年間40日分を有給で取得することが可能です。これには外部の専門家も「有給というのは他ではあまり聞いたことがない。花王の介護両立制度は手厚いですね」と驚かれていました。 齋藤:ただ当社としては、休職期間の長さよりも休職中の行動が重要だと考えて社員に啓発をしています。厚生労働省もいっているように、介護休職は「介護に専念するための期間」ではなく、「仕事と介護を両立する体制を構築するための期間」です。休職中に自分のすべての時間を介護に使ってしまうことで、休職期間が明けて職場復帰したときに仕事や生活がうまく回らなくなってしまう恐れがあることを懸念しています。また、介護両立において周囲との協力体制を作れないことで、一人で介護を抱え込み続けてしまう恐れもあります。 介護を担う必要があっても、社員には自分自身のことも大切にしてほしい。そのためには、介護休職の期間を使って外部の専門機関などを活用したサポート体制を整えるなど、両立しやすい環境を整えていく必要があります。 荒川:「経済的負担」へのサポートとしては、介護見舞金などに加えて、外部サービスを利用するための補助金など、共済会の支援メニューを拡充しました。当社は介護用オムツなどの介護用品も製造していますので、そういった物資的支援も含まれています。