花王が実践する仕事と介護の両立支援。カギは「当事者の声」と「啓発」
介護を担う社員が増えることを早くから予測し、必要な支援制度を整えて社員への啓発活動を行ってきた花王株式会社。仕事と介護の両立支援においては、「当事者の声を聞くこと」と「社員への啓発活動」が、とりわけ重要だといいます。周囲に相談しづらく、実態の見えにくい介護について、社員の声をどう拾い、支援制度の整備や認知を推進してきたのか、DE&I推進部の齋藤さんと荒川さんにお話をうかがいました。
15年後の介護両立社員割合をシミュレーションし、支援体制を整える
――花王株式会社(以下、花王)では2008年から仕事と介護の両立支援に取り組まれていますが、どのような背景があったのでしょうか。 齋藤:古くは1934年の長瀬家事科学研究所設立を契機として、花王は女性社員の活躍の場を拡充してきました。以来、1990年代から2000年頃にかけて、女性の就業継続を支援するという観点で、「仕事と育児/介護の両立」のための制度の拡充に重点的に取り組んできました。 2000年代初旬は社会的にもワークライフバランス意識が高まってきた時期です。社内でも、今後は「仕事と介護の両立」がそれまで以上に課題になるのではないかという声が上がり始めていました。2008年に15年先まで試算してみると、10年後には当時の倍の約6人に一人の社員が介護責任を負う可能性があるという予測が出たのです。 荒川:介護との両立は、性別や年齢、婚姻の有無や役職などに関係なく、だれもが当事者になる可能性があります。潜在的な不安はあるはずですが、社員がどのぐらい介護を担っているのかという実態が見えにくいこともあり、まずはどんな課題があるのかを調査することになりました。 はじめに、福利厚生サービスのうち介護関連のメニューを利用したことがある社員にアンケートを実施。介護の状況や期間、介護対象者と社員の同居・別居、社員本人はどのような関わりをしているか、仕事と介護を両立する上での心配ごとや負担感などについて、数百名から回答を得ました。さらにその中から一部の社員には個別ヒアリングも行いました。 その結果見えてきたのが、介護責任を負う社員が抱える課題は「心理的負担」「時間的負担」「経済的負担」の三つの側面に大別されるということ。とりわけ心理的負担が大きいことがわかりました。