やっぱり、セブン&アイの買収提案は悪い話なのか いやいやそうでもない、これだけの理由
買収で「優れた企業になる」という選択肢を捨ててよいのか
前述の通り、セブン&アイは規制業種にあたるため、買収には日本政府の承認が必要なのではないかとの見方があります。 財務省が「外資による買収防衛目的で、コア業種へ格上げすることはない」という報道が出ていました。しかし、その「コア業種への格上げ」が万が一通ってしまうと、日本製鉄がUSスチールを買収することとは逆になってしまいます。そうなった場合、多くの投資家に対して日本の市場は世界に開かれていないという印象を与えてしまうでしょう。 上場会社に対する東京証券取引所からの「資本コストや株価を意識した経営」への対応要請などにより、日本企業は今、資本市場と向き合うべく変わろうとしています。日本の株式市場は乱高下しているものの、海外投資家は逃げていません。こうした状況の中で「買収への抵抗」が起きてしまうと、かなりネガティブな反応をされてしまうでしょう。 果たしてそれは日本経済にとって本当に良いことなのでしょうか。私は、もっと合理的な判断をもって、日本社会が買収を許容できるようになると良いと感じています。自民党総裁選を控える中で、幸い買収についてはネガティブなコメントは特段ありませんでした。個人的には、日本社会や政府機関が買収に抵抗するような状況にならなければ良いと考えています。 なぜなら、前段で説明した通り、ACTがセブン&アイを買収し、企業価値が向上したとしたら、日本経済や日本社会にとってプラスだと考えるからです。確かに、セブン&アイという名前ではなくなる可能性があり、純粋な日本の小売り企業ではなくなるかもしれません。 ただ、買収により海外の商習慣を日本の小売りに取り入れていくことで、今後の発展に良い影響を与えられる可能性もあります。買収に対してアレルギー反応を示すだけでなく、そうした可能性を信じることも必要なのではないでしょうか。
日本経済の活性化につながることが最重要
今回は、セブン&アイという小売り業界の話でしたが、それ以外の業界でも今後同じようなことが起きうると考えています。例えば自動車業界に関しても、中国メーカーの台頭により日米欧メーカーが中国だけでなく、世界中の市場での競争が一段と激しくなっています。2000年代初頭のような国境を超えた大型の統合が起きました。今後、同じように完成車はもちろん、自動車部品の業界でも統合が進むかもしれません。 今回の買収提案は日本の上場企業にとってエポックメイキングになるのでは、と考えています。なぜなら、収益性は申し分ないが、成長への期待や効率性の低さを放置できなくなるからです。 市場からの評価が割安であれば、大企業でも買収される可能性があります。たとえ買収されなかったとしても、今回のセブン&アイでいえば、数年後にACTに買収されたほうが良かったのではないか? と株主に思われないような結果を経営者は出さなければならないのです。 円安の影響もあり、今後は優れた企業ほど国境を越えて買収の対象となるでしょう。日本企業が、日本人の手によって育っていくことは理想的ではあります。一方で、買収によってより優れた海外企業の経営で今まで以上に成長し、そこで働く日本人の給与やスキルが成長することも同じように日本社会にとってプラスです。 日本の社会は経営者も社員も株主も、一気にグローバルのレベルにアップデートしなければならない、待ったなしの状況に突入しているのかもしれません。それが日本経済の活性化へとつながっていくことが一番大切なのだと思います。 (草刈 貴弘、カタリスト投資顧問株式会社 取締役共同社長/ポートフォリオ・マネージャー)
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