相続税において税務署が一番見つけたいのは「名義預金」。「郵便貯金はスルーされる」はウソ…気をつけるべき税務調査のポイント
税務署は名義預金を見つけたい
税務の世界では、申告書に書かれていない財産(故意であるか過失であるかを問わず申告書に「表現されていない」財産)を「不表現資産」という呼び方をします。 不表現資産のうち最も見つかりやすいのが名義預金です。 名義預金とは、口座名義人がお金を出していない預金のことをいいます。 相続が発生したとき、亡くなった人が配偶者や子供などの口座を作っていて、亡くなった人が管理していた場合に名義預金と見なされ、相続財産に戻すことになるので相続税の対象となります。 税務署は市町村役場から死亡の連絡が入ると、「相続税の対象となるくらいの財産がありそうだな」と思えば、まず亡くなった方の自宅数キロ四方にあるすべての銀行にその人自身やその人の家族の銀行預金について問い合わせをします。 税務署から「誰にいくらの預金がありますか?」と尋ねられると、銀行は誠実に答えます。ここで名義預金のあたりをつけるわけですね。 たとえば夫婦のうち夫が亡くなったとき、妻名義の預金が見つかったとしましょう。果たしてこれは本当に妻自身の財産なのか?と税務署は考えます。 妻自身に収入があったり、妻の親から引き継いだ財産があったりした場合は別として、専業主婦なのに何百万、千万単位の預貯金を持っていることがわかると、税務署としては「このお金の出どころはどこなんだ?」と考えます。 「これは妻の名義を借りてお金を移動させただけで、本来は亡き夫の財産なのではないか」との推測が成立します。 このように名義は他の人の名義であっても、お金の出どころが亡くなった人である預金を「名義預金」といいます。 相続税の税務調査でいちばん見つかりやすく、見つかったら納税者はほぼ言い逃れができないので、税務署としても見つけたいのが名義預金なのです。
無記名の割引債とは?
かつて、無記名の割引債という金融商品が存在しました。 無記名の割引債とは債券の一種で、額面から利子相当分を差し引いた金額で購入し、償還時に額面金額が払われる債券です。 たとえば、900万円で無記名の割引債を買っておくと、満期時には100万円がプラスされ1000万円になって償還されるというものです。つまり額面金額と発行価額の差が実質上の利子となります。 具体的にはかつての東京銀行から「ワリトー」、みずほ銀行から「ワリコー、リッキー」、商工中金から「ワリショー」などの名前で発行されていました。 現在はマネーロンダリング防止のため、無記名のものは新しくは発行されていませんが、かつては非常に人気の高い商品でした。 今から20年近く前になりますが、相続財産隠しに巨額の割引金融債が使われていたのが発覚したことがあります。財界の大物の財産約40億円のうち16億円あまりを隠し、相続税約10億円を脱税したとして相続人である長男が相続税法違反の罪で在宅起訴されたのです。 それに使われたのが割引債でした。 もう所持している人は少ないと思いますが、今でも税務調査で割引債が見つかることはあります。税務署は被相続人の死亡前の預金の動きをチェックします。預金が引き出されていて行き先が不明なものは割引債になっていると推定します。とはいえ、無記名なのでお金の出どころははっきりしません。 そこで税務署は銀行からお金が引き出された日と同じ日に割引債を購入した痕跡を発行元に求め、徹底的に調査します。 たとえばある日、銀行から2億円が引き出され、それと同じ日に無記名なので誰なのかわからないけれども、2億円の割引債が購入されていた、となると「これだ!」となるわけです。 このあたりの税務署の調査力にはいつも感服させられます。 ちなみに無記名とはいえ割引債の発行元には本人を特定するのに便利なヒントもあるようです。 また、被相続人が生前銀行から借金をしたときに、割引債を担保に入れていることもあります。担保は記録に残っているので、割引債を買ったことが判明するというわけです。