五輪開催直前に総選挙。フランスで今何が起きているのか、どうしても気になる5つの疑問
【Q4】国民連合の当面の狙いは?
国民連合および同党と共闘する勢力が最終的に狙うのは、総選挙での勝利や国民議会の掌握、さらにその先に見えてくる次期大統領の椅子だ。 フランスでは大統領の三選は禁止されており、マクロン大統領が現在の任期中に辞任しなくても、2027年には大統領選挙が実施される。 EU加盟国の歴史を紐(ひも)解けば、欧州委員会に対する過激な要求を主張して選挙に勝利した各国政権の多くは、いずれも経済・金融情勢の混乱により短命に終わってきた。 したがって、国民連合が遅くとも2027年に実施される大統領選挙で本当に勝利を目指すのなら、これから成立するであろう極右勢力主体の国民議会においても大きな無理はしないだろう。 極右政党による国政運営やそれに伴う財政支出への増大圧力は、ユーロ相場にとって当然のことながら愉快な材料にはなり得ないが、底割れを促す悲観的な材料とまで騒ぐのは行き過ぎにも思える。 とは言え、今回の欧州議会選挙の結果を見る限り、ドイツ、フランス、イタリアといった主要国のほか、オーストリアでも極右勢力が著しく存在感を増しており、今後EUの政策運営が右傾化して内向きになっていく未来への萌芽が見られるとの認識には否定しがたいものがある。
【Q5】金融市場が警戒すべき展開は?
繰り返しになるが、金融市場が欧州債務危機以降に繰り返し経験してきた政治的危機を思い起こせば、現在の国民連合はEU離脱やユーロ脱退といった極端な主張を展開しているわけでもなく、行き過ぎた懸念は不要と思われる。 今後本当に懸念されるのは、極端な主張が現実化していくような展開ではなく、財政ルールの適用などをめぐってフランス国民議会が欧州委員会と鞘当てを始める展開だ。 そうした状況の中でフランス国債が格下げに至り、利回りが押し上げられ、それを受けてユーロ売りが強まる地合いがしばらく続く可能性はある。 もう少し具体的に説明しよう。 フランス政治の中心はあくまで外交・国防を司る大統領だが、内政は首相と閣僚が司る。その首相・閣僚の任命権並びに国民議会(下院)の解散権を大統領が持つことで、首相へのけん制が常時確保されている。 しかし、国民議会が可決した法案に対し、大統領は絶対的な拒否権を持たない。そこに政局流動化の余地が出てくる。 例えば、国民連合はロシア・ウクライナ戦争から極力距離を取るべきとの立場だが、国防はあくまで大統領の所管なので、仮に国民連合ら極右勢力が国民議会の多数派を押さえたとしても大きな変化にはつながらない。 一方、EUの(安定成長協定など)財政ルールへの反発や拡張財政路線の強弁、移民規制の強化など内政に関する法案を通じて、国民連合が影響力を発揮する展開は十分にあり得る。 国民連合は象徴的な政策として付加価値税の引き下げを公約に掲げるが、パンデミックで毀損(きそん)した財政の現状を踏まえれば、EUの財政ルールとバッティングする展開が予見される。 ちなみに、国民連合に次いで有権者の支持を得る左派勢力(統一会派)も、最低賃金の見直しなど拡張財政路線を押し出しており、これは左右両極が国民の歓心を買うためにばら撒きを主張している状況とも言える。 こうした勢力が議会運営を仕切るような展開は、親EUに身を投じてきたマクロン大統領としては承服しかねるはずで、その文脈で言えば、一部でささやかれる辞任観測も全く無根拠とまでは言えない。 そのような内政混乱の懸念を前提とすれば、フランス国債やユーロの売りが強まるとの見方には相応な説得力があり、当面予見される地合いと言えるだろう。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
唐鎌大輔