五輪開催直前に総選挙。フランスで今何が起きているのか、どうしても気になる5つの疑問
【Q2】事態はそこまで深刻なのか?
市場は極右首相の誕生とその影響を懸念するものの、やや先走りのきらいもある。 過去の経緯を振り返れば、2017年5月および2022年5月のフランス大統領選挙では、反EUの旗印を掲げる極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が移民排斥やEU離脱、ユーロ脱退を主張して戦った。 特に2017年は第1回選挙でマクロン氏とルペン氏の得票率が均衡する接戦となり、その前年に起きたイギリス国民投票でのEU離脱派の勝利、アメリカ大統領選挙におけるトランプ氏の当選に続く、「三度目のまさか」があるのではと注目を集めた。 しかし、激戦を繰り広げながらも決選投票でマクロン氏に大差の敗北を喫したルペン氏は翌2018年、過去のイメージを払しょくして有権者の支持を拡大するため、党名を「国民戦線」から「国民連合(RN)」に改称した。 改称後の国民連合は極右政党としてのスタンスを維持しつつも、EU離脱やユーロ脱退のように極端な主張を前面に押し出すことがなくなった。それらの主張は消えたわけではないが、あくまで実現可能な範囲内にあるとの位置付けに変わっている。 しかも、今回の選挙について言えば、極右政党は自らの立ち回り次第で議会の過半数を押さえられる情勢で、既存政党を追いかける構図だった2017年および2022年と違い、EU離脱のような極論もしくは非現実的な主張を押し出して耳目を集める必要すらない。 なお、債券市場に目を向けると、フランス国債の利回りは上昇基調にあり、ユーロ圏では最も低リスクと評価されるドイツ国債との利回りの差(スプレッド)も急拡大している現実がある。 しかし、2015年のギリシャ、2017年のフランス、2018年のイタリアなど、過去に国政選挙とユーロ脱退の可能性がセットで注目された時代に比べれば、足元の債券市場の動きを踏まえてもなお、現実的な問題として取り合うほど差し迫った状況とは言えない。 繰り返しになるが、フランスのEU離脱およびユーロ圏脱退懸念は、現時点では市場の先走りだろう。