「まさか最後にコケるの?という感じ」世界女王・坂本花織があえて“世界一にこだわらない”ワケ…五輪に向けて掲げた“意外な目標”とは?
いつもとは違う緊張感
国際大会の初戦となったロンバルディア杯では3連続ジャンプを跳ぶことが出来ず、スケートカナダでは3連続ジャンプで転倒した。今季のカギとなる3連続を、NHK杯では何としても決めたい。そう心に刻み、試合当日を迎えた。 女子の公式練習は有観客で行われ、本番さながらの緊張感。ホテルに戻ってもリラックスできず、不安なまま準備をした。 「メイクするのにアイライナーが引けないぐらい手がプルプル震えていました。緊張の落ち着かせ方が分からなくて『どうしよう! 』と。昨季までは、練習してきたことを出せるかという不安でしたが、今の段階はそこまで行っていないなかで自分を試しているので、いつもと違う緊張感でした」 そんな中、力をもらったのは、ホテルのテレビで応援したチームメイト、壷井達也の演技だった。 「NHK杯まで2人で貸し切り練習していたのですが、壷井君は、これでもかと4回転サルコウの練習をしていました。曲かけは『壷井君が3回、私が1回』というくらい。その成果が出たのだと思うと、涙が出そうになり、メイクが終わった後だったので『泣いたらあかん』と思って、下を向いて、真下に涙を垂らして泣きました」 壷井は大健闘のショート3位発進。代々木体育館に着くと、ハイタッチで祝福した。 「『よくやったね』といったら『花織ちゃんも頑張って』と言われて、頑張ろうという気持ちになれました。本番前には、中野(園子)先生から『一緒に跳ぶから精一杯やってきて』と言ってくれたのも、心強かったです」
予想を上回るショート今季世界最高点
ショートは、アストル・ピアソラのタンゴ。妖艶さとキレ味ある動きが映える、初挑戦の領域だ。ジャンプを1つ1つていねいに降りると、ステップシークエンスでは全身から情熱が溢れ出すように滑り抜いた。 「振り付けた頃は、演技に苦戦しました。自分としてはメリハリをつけて演じているつもりが、映像で見ると暴れまわっているみたいで。練習を積んで、やっと自分の思い描いている姿と映像が近づいてきたなと感じています」 演技を終え、力強くうなずく。今季世界最高の78.93点が表示されると、顔をほころばせた。 「予想を上回ったのでびっくりしました。今季最高点は嬉しいですが、調子に乗ると明日に響くので、乗らないようにしておきます」 迎えた翌日の朝。フリーには、今季のカギとなる3連続ジャンプと、そこに続く「3回転+3回転」がある。しかし朝の練習では、3回転+3回転で転倒した。 「ちょっとスピードを落として守りに入ったら失敗したので『今日は守りに入らない方が良いな』というのを感じました。かなりハードなプログラムなので、スケートカナダまでは、前半は勢いを抑えておこうと考えてしまっていた。でもそれは守りに入ってしまうこと。今日は前半から飛ばして、攻めていきます」 曲は、振付師のマリーフランス・デュブレイユから「女王のプログラムよ」と言って授けられた『シカゴ』。悪女になりきり、軽快な音楽とダンスで誘惑するプログラムだ。 「『とにかく今日は楽しんでやろう』という気持ちで挑みました。3連続ジャンプが決まったところから自分のペースになって、次の『3回転+3回転』は『後半どうなろうといい、思い切って決めよう』という気持ちで跳びました」 前半から飛ばしたぶん、後半は息があがってきた。 「体力が持つかどうか、微妙でした。でも最後のコレオシークエンスに入る前に、中野先生とグレアム(充子)先生が『頑張れ! 』と言ってくれて、『もう頑張るしか無い! 』と。最後2つのジャンプは踏ん張りました」
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