まるでフランス!カフェ好きの聖地を訪ねて茨城県へ
女性に限らずお爺さんでも“ふらり”と立ち寄れる店。美味しいコーヒーやサラダに、お酒も楽しめるようなフランスのカフェのような存在をつくりたい──奥澤さんのそんな思いがはっきりと映像化したのは、フランスの民宿を特集したファッション誌の中だった。北フランスはブルターニュでリンゴ農園や養豚業を営みながら姉妹で営むその宿は、古い製粉所だった母屋と馬小屋を改装。木組みの温かさを活かしながらも、部屋ごとに異なるデザインが施されていた。
誌面からイメージを膨らませ、「カフェ・ラ・ファミーユ」の初めの一歩を建てた翌2005年、雑誌でも目にした理想の宿を訪れた。憧れは確信へと変わり、心地よい空気感を店で働くスタッフとも分かち合いたいという気持ちで、幾度も社員研修を兼ねて訪ねるようになったとか。「実際にその土地を訪れ、空の色や湿り気を感じ、街の音を聞き、人と触れ合い食事をする。それでこそ、自分の中に収穫という財産が残る。雑誌の中の世界は、あくまでもプロローグ。その先の物語をつくるのは自分たち自身だから」(奥澤さん)。
取材前にオーダーしたランチは、イチジクのガレットだ。同席したフォトグラファーは、きのこのクリームタリアテッレを所望。ほかにもオムライスや鶏もも肉のコンフィ、ニース風サラダからキッシュプレートまで、目が迷うバリエーションが書き連なる。料理が運ばれ驚いたのは、そのボリュームだ。洒落たメニューとの心地よいギャップの根底には、「男性にもしっかりお腹を満たしてほしい」という奥澤さんの初心が込められている。
料理を食べ終え、庭を歩き、あちこちの席に座ってみて感じたのは、どこを切り取っても嘘がないということ。古材やブロカントで形だけ整えた空間とは異なり、約20年に及ぶクロニクルのなかで、少しずつ変化を重ね築かれた幸せな気配が漂う。ここで働く人、ここを訪れた人、この場所から生まれたカップルやその先に生まれた命など、たくさんの喜びが綴れ織のように「カフェ・ラ・ファミーユ」の情景を織りなしている。この日の私たちの高揚感も緯糸の一本として加わっただろうか。次に訪れたときに、自分の目で確かめたいと強く願った。
café la famille(カフェ・ラ・ファミーユ) 住所:茨城県結城市結城911-4 電話:0296-21-3559 BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。