“屈辱のベンチスタート”から宇佐美貴史が決めた同点弾。ガンバ愛をエネルギーに変えて「もう一度、ポジションを奪いにいく」
ベンチで光らせた観察眼、町田から奪い返した主導権
開始17分に先制点をあげたのは町田だった。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入からOFR(オンフィールド・レビュー)を経て、ペナルティーエリア内でガンバの中谷進之介のハンドが確認され、獲得したPKを鈴木準弥が大胆にもど真ん中のコースを打ち抜いた。 対するガンバは攻撃の形をほとんど作れない。前半に放ったシュートはわずか1本。失点直後の18分に坂本が放った一撃は、ガンバから期限付き移籍で新加入した東京五輪代表の守護神、谷晃生にセーブされた。劣勢が続くなかで、宇佐美は初めて見る町田のスタイルを観察し続けていた。 「町田のペースにズルズルと引っ張られていった、という印象だった。こちらが流れを作ろうとしてもうまく切られて、やりたいことができないなかでセットプレーやロングスローで勝負してくる。あれが多分、町田がやりたいサッカーだと思うし、実際、そうなると相手はすごく活気立ってくる」 宇佐美の特異な観察眼は、自らがピッチに立ったときに真っ先に選択するプレーを弾き出させていた。待望の出番が訪れたのは55分。坂本に代わって1トップに入った宇佐美は、自軍のセンターバックの2人、中谷と三浦弦太にチーム戦術のなかになかったパターンを指示している。 「センターバックの2人には、相手の背後に走るからとりあえず蹴ってくれと伝えた」 最終ラインからのロングボールを、あえて多用させた意図を宇佐美はこう語った。 「自分たちのサッカーをするのももちろん大事だけど、まずは一度、相手のサッカーに合わせてみてもいいとベンチで見ながら思っていた。町田はセンターバックのところで前向きに、前向きにディフェンスをしてきた。そこで彼らを後ろ向きに走らせて、ゴールキーパーまで下げさせて蹴らせればどうなるのか、というイメージも膨らませていた。そのなかで自分が相手を後ろへ、後ろへと引っ張っていくことで、逆に自分たちのペースも出てくるかなと考えながらプレーしていた」 高校サッカー界の強豪、青森山田から異例の転身を遂げた黒田剛監督のもと、町田はセンターバック陣にまずサイズを求めた。強度の高い守備で失点を減らし、昨シーズンのJ2戦線を制する原動力になったCB陣に、今シーズンは身長186cm体重84kgのコソボ代表ドレシェヴィッチが加わった。 ガンバ戦ではドレシェヴィッチと、昨シーズンから引き続きプレーする183kg79kgのチャン・ミンギュがCBコンビを形成。宇佐美が指摘した通り、高さと強さでガンバの攻撃をはね返し続けた。 しかし、宇佐美が投入されてから5分後の60分に状況が一変する。町田のゲームキャプテンを務めていた仙頭啓矢が、2枚目のイエローカードをもらって退場する。数的優位に立ったガンバが主導権を握り始めたなかで、宇佐美が意図的に繰り返した縦への動きがジャブのように効いていった。 「町田もちょっとパワーが減ってきて、逆にこちらの作りのところがうまくいっていた。背後への走りに加えて、フィニッシュに絡むところしか考えていなかった」