佐々木朗希を失ったロッテの危機【白球つれづれ】
◆ 白球つれづれ2024・第42回 大谷翔平の世界一に沸いた球界に、今度は新たな激震が襲っている。 ロッテ・佐々木朗希投手のポスティングによる退団、メジャーへの流失だ。 9日、ロッテ球団は同投手のポスティングシステムによるメジャー移籍へ向けた手続きを開始すると発表。これを受けて早くもメジャー各球団による争奪戦が始まった。 現時点ではドジャース、パドレス、カブスらが進路として有望視されているが、他にもヤンキースやメッツらの有力球団など10球団近くが獲得の姿勢を見せている 23歳の怪腕にはマイナー契約からスタートする事が決められている。いわゆる「25歳ルール」だ。 このためポスティングシステムの申請手続き締め切りは12月15日とされ、この日までに契約すると契約金、年俸の総額は上限約250万ドル(約3億8500万円)同日以降になると制限総額はリセットされて約700万ドル(約10億7800万円)となるが、いずれにせよ、佐々木クラスの実力で、25歳まで海外挑戦を待てば、年俸で20~30億円は確実。ロッテへの譲渡金も格段に跳ね上がるため去就が注目されていた。 しかし、佐々木のメジャー挑戦の意思は固く、話し合いを続けてきた球団も「プロ5年間の貢献度も踏まえた総合的な判断」(松本尚樹球団本部長)として苦渋の決断を下した格好だ。 FAやポスティングが当たり前の時代。しかし、ファンの間でも佐々木の挑戦には賛否の声が分かれている。 佐々木と同様に23歳の時点で海外挑戦を決めた大谷翔平選手との実績比較や、今季からドジャース入りした山本由伸投手に比べて、誰もが納得して送り出す状態ではなかった。 確かに今季はキャリアハイの10勝をマークしたが、5年間を振り返れば22年の完全試合達成の金字塔はあるものの、毎年のように故障を起こし、規定投球回数に到達したことはない。今シーズン前に佐々木の米挑戦を聞かれた吉井理人監督は「チームに貢献して、みんなが納得して送り出せるのがベスト」と語っている。 ◆ エースを失うことになったロッテのチーム事情 一方で、佐々木側の希望は入団時に、すでに話し合われ5年終了時のメジャー挑戦は既定路線だったと言われる。すでに代理人も大手代理人事務所「ワッサーマン」のジョエル・ウルフ氏が担当。同事務所はダルビッシュ有、山本らとも代理人契約を結んでいる。佐々木の情報は米国から流れて来る事が多く、これも代理人や佐々木サイドの作戦と見る向きもある。 バラ色の未来を描く佐々木に対して、エースを失うことになったロッテのチーム事情は当然のことながら厳しくなる。 10勝5敗、崩御率2.25の数字に加え、本社のCMにも出演するなどチームの顔であり、人気ナンバーワン選手の退団は人気面でも憂慮される。 ロッテの今季投手陣を見てみると、佐々木以外は小島和哉12勝10敗、西野勇士9勝8敗、種市篤暉7勝8敗が先発陣の柱で、C.C.メルセデスに途中入団のダラス・カイケルの外国人を加えても5投手合計で33勝32敗。これに佐々木の10勝と貯金5勝分がなくなればV獲りの計算も立たない。 直近の一部報道によれば、佐々木の穴埋め要員として今オフに大リーグレッドソックスからFAとなるメジャー38勝右腕のブラッド・ケラー投手獲得に乗り出すと伝えられているが、仮に入団が決まってもどこまで活躍できるかは未知数だ。 ロッテには2021年に設定した「VISION 2025」と言う球団目標がある。地域との共生やブランド力の向上などと共に2025年までには日本一を獲得して常勝軍団を作り出すビッグプランである。 だが、それすらも佐々木の退団は揺るがしかねない。吉井体制の3年目。来季からは建山義紀新投手コーチを日本ハムから迎え、吉井監督と二人三脚で投手陣の再構築を図る。ドラフトでは走攻守三拍子揃った即戦力候補の西川史礁外野手(青学大)を獲得して打線の強化を狙っている。 エースの流失と言う、恐れていた事態が現実のものとなった。昨年がリーグ2位、今季が3位と着実にAクラスの実力をつけてきたチームにとって、どうこのピンチを乗り越えていくのか? 正念場の時がやってきた。 文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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