中国がサウジアラビアに「急接近」…両国に共通する「危機感の正体」
技術流出の懸念
5月30日、北京で“中国・アラブ諸国協力フォーラム”が開催された。中国はAIや金融で中東諸国と協力をさらに強化する方針を示した。 これまで米国も安全保障も含めサウジアラビアなどへの協力を提示してきたが、足許、関係強化のスピード、規模感で中国が上回っているようにも見える。 中東諸国は、デジタル化の加速によって脱炭素や石油依存を軽減するため、より安価なエネルギーやIT機器の導入を必要としている。中国のコスト競争力は、中東諸国が必要する低価格でインフラを整備するため重要だ。 中国は中東諸国に、電気自動車、車載用のバッテリー、太陽光パネルなど生産が過剰な製品を輸出し、景気の下支えを図る。そうした利害の一致で、レノボとサウジアラビア政府系投資会社は戦略的な提携を発表したと考えられる。 サウジアラビアは入札に中国企業を招き、米国により迅速かつ大規模な支援を求めているともとれる。特に、AI分野でのチップ供給の増加は、サウジアラビアなど中東諸国が経済と社会運営の効率化を目指すために欠かせない。 ただ、米国がそうした要請に確実に答えることは難しい。中東経由で最先端のAIチップ、関連技術が中国に漏出する懸念があるためだ。
世界経済が不安定に
米政府には、想定外のファーウェイの成長があるだろう。ファーウェイは、回路線幅7ナノ(10億分の1)メートルのスマホチップの開発に成功した。 同社は拡張版の5G通信技術(5.5G)分野で、サウジアラビアの通信企業と提携。エヌビディアやAMDなどのAIチップが中東に輸出され、何らかの形でファーウェイなどがチップを入手すると、中国IT先端企業の競争力上昇の恐れは増す。 米国は警戒感を高め、中東向けAIチップの輸出許可を一時差し止めたとみられる。対象になったチップの数量、期間などは不明だが、米国にとって中国と中東諸国の接近スピードはかなり急だ。 中国へのAI分野の技術、知的財産の流出を防ぐため、米国は半導体関連の輸出規制などをさらに厳格化し、中東諸国にも遵守を求める可能性は高い。 そうなると、サウジアラビアなどのデジタル技術の実用化は後にずれこんでいく。経済運営を石油に依拠し続ける中東諸国は、結局のところ減産による価格維持で財政を下支えするしかないだろう。 減産の延長が想定外に長引けば、世界的に金利上昇リスクも上昇する。レノボ出資など中国と中東の接近は、世界経済の不確定要素の増加につながる懸念は高い。 ーーーー 連載〈韓国経済の屋台骨「サムスン」が抱える「深刻な事態」…「異例の役員人事」のウラ側〉もあわせてお読みください。
真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授)