『シュリ デジタルリマスター』カン・ジェギュ監督 デビュー作のおかげで新しい挑戦への躊躇がなくなった【Director’s Interview Vol.431】
「戦争が起きた!」と通報された
Q:当時は過去に例を見ない大作映画だったかと思いますが、資金調達でのハードルはありましたか。 カン:私が書いたシナリオを元にプロデューサーが試算したところ、予算として30億ウォン必要なことがわかりました。当時の映画製作費の平均は10億~12億ウォンぐらいだったので、30億ウォンとなると当時の2~3倍はかかってくる。ちゃんと資金調達できるかどうか心配でした。それでも2社から「一緒に撮りたいので製作費を出しましょう」と申し出がありました。1社は30億ウォン全額支援すると言ってくれる会社で、もう一社はサムスン映像事業団でした。サムスンからは「一緒に撮りたいが全額支援は難しい。予算を下げられるのであれば是非一緒に撮りたい」と返事をいただきました。普通であれば30億ウォン全て出すと言った前者と組むところですが、私は後者のサムスンを選びました。 実は、30億ウォンの予算があったとしてもクオリティをどれだけ保てるか心配で、それ以上の予算が必要になるだろうと考えていたんです。そうであれば、いずれにしても予算が足りないので、それならばサムスンと組んだ方が良いなと。というのも、サムスンはロケーションのネットワークをたくさん持っていたので、製作費を減らすためにも、クオリティの高い映像を作るためにも、サムスンと組んだ方が効率的だと思ったんです。結果として、劇中に出てくる「情報部」の建物は、サムスン本社を使わせてもらえましたし、室内の銃撃シーンもサムスンの工場にある厨房を使わせてもらいました。製作をする上ではとても助けになりましたね。 Q:大規模なロケ撮影やアクションなど、全てが初めての経験だったかと思いますが、どのようにして撮影に臨まれたのでしょうか。 カン:街中で銃撃シーンを撮影するなんて、それまでほとんどなかったので、苦情がたくさん来ましたね(笑)。ロケ地周辺の住民には事前に撮影することを知らせていたのですが、いざ撮影を始めると「武装した北の工作員が来た!」と通報されてしまいました。当時は今以上に南北関係に敏感な時期だったので、多くの方が「本当に戦争が起きた!」と思い込んでしまった。そんなハプニングがたくさんありましたね。 Q:日本映画界では、大作映画に挑みたくてもなかなか難しい現状がありますが、こういった革新的な映画に挑戦するにはどうすればよいのでしょうか。 カン:以前は予算や技術などの現実的な問題から、新しい挑戦が出来ないことがありましたが、今は状況が変わってきています。若いフィルムメイカーたちの未来は、私たちの頃とはガラリと変わっているでしょう。例えば、AIを使えば予算や技術のハードルは越えることが出来るようになる。自分が想像力を発揮さえすれば、なんでも出来る時代になると思います。制作の助けとなるハードウェアやソフトウェアはもっと充実すると思いますし、これからは作り手自らの想像力が問われてくる。どれだけ新鮮で新しい想像力を働かせることが出来るかが、映画作りに繋がってくるでしょうね。もう現実のせいには出来ません(笑)。これからのフィルムメイカーは自分との戦いであり、いかに新しいものを生み出せるか、いかに想像力を働かせることが出来るか。それらが課題になってくると思います。 監督/脚本:カン・ジェギュ 1962年生まれ。 映画『銀杏のベッド』(96)でスクリーン・デビュー。監督作に、映画『ブラザーフッド』(04)、『マイウェイ 12,000キロの真実』(11)、『チャンス商会~初恋を探して~』(15)などがある。最新作は今年8月30日(金)公開の『ボストン1947』。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 『シュリ デジタルリマスター』 9月13日(金)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー 配給:ギャガ ©Samsung Entertainment
香田史生