『シュリ デジタルリマスター』カン・ジェギュ監督 デビュー作のおかげで新しい挑戦への躊躇がなくなった【Director’s Interview Vol.431】
1999年に韓国で公開され、『タイタニック』の記録を破る621万人を動員した映画『シュリ』。翌年公開された日本でも、当時の韓国映画としては異例の興行収入18億円を突破する大ヒットを記録している。しかしその後は、上映権が宙に浮く事態となり劇場上映・配信などは一切なく、幻の傑作となっていた。あれから25年、粘り強い交渉を重ねてきたカン・ジェギュ監督の努力が実を結び、映画公開から25周年の今年、『シュリ デジタルリマスター』として4Kデジタルで蘇った。 韓国映画に革命をもたらしたとも言われている『シュリ』だが、カン・ジェギュ監督はいかにしてこの映画を作りあげたのか? オンラインで話を伺った。
『シュリ』あらすじ
要人暗殺事件を捜査中の韓国情報部員、ユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)とイ・ジャンギル(ソン・ガンホ)。犯人と目される北朝鮮の女性工作員を追跡するふたりは、強力な破壊力を持つ液体爆弾を用いてのテロの脅威を知る。ターゲットは南北両首脳―。
挑戦を躊躇しなくなった出来事
Q:25年前の映画が時を超えて蘇りました。自分の作品が再び世に出ていくのはどんな気持ちですか。 カン:今年は、私が監督した『ブラザーフッド』(04)という作品の20周年にあたり、先日韓国で再上映がありました。映画というのは一度公開したら終わりではなく、10年後も20年後もまた観客と出会うことができる。当時と今では同じ作品でも観た時の感情が違ってくる。映画というものは生きていて、ずっと呼吸をしているのだと。改めてそう思い感激しました。日本でも多くの皆さんに観ていただきたいですね。 Q:公開当時、アジアでここまでのアクション超大作が撮れたことに驚きました。どういった思いでこの作品を作られたのでしょうか。 カン:私は『銀杏(いちょう)のベッド』(96)というファンタジー映画で監督デビューしたのですが、当時は大反対されました。韓国の観客はファンタジーに馴染みがなく、ファンタジーへの好感度も低い。ファンタジーを観る文化的なバックグラウンドも無いので、止めた方が良いと言われたんです。でも結果的には成功しました。そのおかげで新しいことへの挑戦を躊躇しなくなりましたね。もし『銀杏のベッド』が失敗していたら『シュリ』は生まれていなかったかもしれません。 また、南北分断をアイデアとした作品は、当時は避けられる傾向にありました。しかもスパイ映画なんてハイリスクだと。逆に私は、これまでと同じような南北関係の描き方では失敗すると思っていました。新しいキャラクター、新しい物語でアプローチした方が新鮮に受け止められる。成功できる確信がありました。 Q:派手なアクションやピュアなラブストーリーの背景には全て南北関係の存在があります。南北関係をエンターテインメントして描くことに何か思いはありましたか。 カン:『銀杏のベッド』のシナリオを北京の大学で書いていたのですが、そこには韓国や北朝鮮から来た留学生がいました。彼らの間には交流があり、中には愛が芽生えた人たちもいた。目の前にいる留学生たちが、分断という現実の中で痛みを抱えながらも、お互いに理解し恋の花が咲いている。これこそまさに分断のリアル。ぜひ映画にしたいと思ったわけです。