子育てを終え、卒婚したシニア夫婦…夫亡き後、扶養に入っていた妻が受け取る「驚愕の遺族年金額」【弁護士が解説】
卒婚か離婚、どちらを選ぶべきか
以上のように、経済的な側面において卒婚と離婚には大きな違いがあります。妻の場合、別居後も生活費をもらい続けられること、相手の死亡後に遺産相続できて遺族年金を受け取れることを考えると、卒婚にメリットがあるといえそうです。ただし離婚すると、そのときにまとまった財産分与をしてもらえます。若くてまだ元気なうちに多額のお金をもらって第二の人生をやり直したい場合には、定年離婚などの選択も充分にありえます。 一方お金を渡す夫側からしてみると、卒婚ではずっと生活費を払い続けなければならず、経済的に厳しくなりますから、すっきり離婚を選択して第二の人生をやり直すメリットが大きくなります。ただし、まとまった財産分与が必要なので、痛し痒しというところでしょう。
シニア世代が卒婚、離婚する際の注意点
シニア世代が卒婚や離婚をするときには、以下のようなことに注意が必要です。 経済的にやっていけるのか 一番重要な点は、お互いが経済的に自立してやっていけるのかということです。 離婚すると家計が完全に別になり、自分一人の収入で生活していかねばなりません。専業主婦だった妻も、夫から生活費をもらうことは不可能です。年金分割してもらっても通常は年金だけで生活するのは困難です。卒婚の場合にも、年金生活の相手からもらえる生活費の金額は大きくないので、別居後それだけに頼って生活するのは不安でしょう。50代、60代になって新しい仕事を探すのは大変です。結果的に子どものお世話になるパターンも少なくありません。 夫のほうも、離婚すると妻の分の加算がなくなって年金が減る可能性があるうえ、妻から年金分割を申し立てられて受け取れる年金を大きく減額される可能性が高くなっています。財産分与まで取られるので、手元資金も非常に寂しくなります。それなのに妻はもういないので、家事などはすべて自分でしなければなりません。少ない年金でのやりくりと家事に追われて、思い描いていた「第二の人生」など夢のまた夢、という状況に陥る可能性もあります。 介護の不安 シニア世代のご夫婦の場合、将来の介護についても考えておく必要があります。夫婦が一緒に暮らしていたら、どちらかが倒れたらどちらかが面倒をみます。少なくとも「放置されて誰も発見してくれない」状況にはなりませんし、精神面でも支えになってくれるでしょう。 離婚してしまったら完全に他人ですから、倒れても誰も気づいてくれませんし、相手に介護の負担を求めることは不可能です。卒婚の場合も、別居状態が続いていたら倒れても相手は気づかないでしょうし、発見されたとしても介護してくれるとは限りません(法律上は介護の義務があります)。 シニア世代が離婚・卒婚するときには、将来体調を崩したときの問題も考えておく必要があります。 子どもの理解 結婚や離婚は個人が自由に選択すべき事柄ですので、親だからといって子どもに遠慮する必要はありません。しかし実際には、子どもの理解を得られていない卒婚や離婚をすると、子どもとの関係が悪化する可能性があります。特に離婚後別の相手と再婚すると、子どもとのあいだで軋轢が生じやすくなります。 そうでないケースでも、親が離婚すると子どもはどちらかの親に肩入れするケースがあるので、一方の親とは疎遠になってしまう可能性が高くなります。老後、配偶者がいなくなってただでさえ孤独なのに子どもとも疎遠になったら、強い孤独感にさいなまれることになるでしょう。
卒婚、離婚は慎重に決断すべき
長年夫や妻と一緒に暮らしてきて「相手がいるのが当たり前」の状態になると「イヤだな」「耐えがたいな」と思う瞬間があるものです。ただそれによって安易に「卒婚」「離婚」に結びつけるのはリスキーです。経済的な問題が大きくのしかかりますし、孤独感や家事の負担、将来の介護や遺産相続の問題なども考えておかねばなりません。 弁護士としては、まずはこういった問題を慎重に検討し、クリアできるケースであれば卒婚・離婚に進まれてもよいのではないかと考えます。 白谷 英恵 Authense法律事務所
白谷 英恵
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