山谷を駆け抜ける「マウンテントレール」カテゴリーを作り上げたシリーズの末裔セロー250
新しいフェーズへ移行した「セロー250」
ヤマハは2001年に1台のコンセプトモデルを発表していた。「トリッカー」と名付けられたそのバイクはトライアルバイクのスタイルをベースにし、「フリーライドプレイバイク」というコンセプトが与えられていた。トリッカーは自転車のBMXのように自由に扱え、その名の通りウイリーなどのトリックを自在にこなすバイクとして開発された。トリッカーは2004年に市販車が発売され、その運動性能の高さで注目を集めた。このトリッカーをベースに、2005年に新型の「セロー250」が登場した。 セロー250は新しい空冷4ストロークSOHC249ccエンジンを搭載し、ミッションは5速へと変更されていた。このミッションの1速ギア比は2.845であり、「スーパーロー」とも呼ばれた225cc時代の3.089と比べると一般的なギア比に設定されている。また、全長は2070mmから2100mmに、シート高も810mmから830mmと若干ではあるが車体も大型化され、車両重量も増加した。 トリッカーという若者をターゲットにしたバイクがベースであることや、このスペックだけを見た225cc時代のユーザーたちからは否定的な意見も当然出たが、豊かなトルクを生み出すエンジンはハイギアード化を補い、セミダブルクレードルタイプのフレームは高速道路での安定性を生み出した。結果としてセロー250は、初代の「マウンテントレール」コンセプトを継承しつつ「デュアルパーパス」的な使い方もできる、より幅広いステージでの扱いやすさをセロー250というバイクに与えたのである。
2度の排出ガス規制に対応した後、35年の歴史に幕を下ろす
2006年には当時流行し始めていたモタードバイクのカテゴリーに、セロー250をベースに17インチのオンロートドタイヤが与えられたXT250Xがデビューし、トリッカーと合わせた三兄弟大勢でラインナップを充実させていった。セロー250は2008年に排出ガス規制に対応するためにフューエルインジェクションを採用、最高出力は21PSから18PSへとダウンされたが、吸気ポートの形状変更などでトルク感が向上。また、キャスター角とトレール量を変更して操安性を高めている。このモデルは2017年に生産中止となり、再びセローはヤマハのラインナップから姿を消すことになる。 2018年8月、カムシャフトや圧縮比、ECUなどに変更を加え、キャニスターを装備することで平成28年排出ガス規制に対応した新型モデルが登場。最高出力は20PSを取り戻していたが、車両重量は3kg増加していた。基本デザインは変更されていなかったが、テールライトをLED化するなどの小変更が加えられていた。しかし、登場から約1年半後の2020年1月、初代モデルのグラフィックをモチーフにしたカラーリングを纏った「セロー250 FINAL EDITION」が発売され、その35年の歴史に終止符を打つことになった。 2024年6月現在新しいセローは登場しておらず、「マウンテントレール」というコンセプトが当てはまるバイクは存在しない。多くのライダーにオフロードバイクの楽しみを教えてきた名車セローシリーズ、その復活を願っているユーザーも少なくないはずだ。
セロー250(2012)
・全長×全幅×全高:2100×805×1160mm ・ホイールベース:1360mm ・シート高:830mm ・車重:130kg ・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 249cc ・最高出力:18PS/7500rpm ・最大トルク:1.9㎏f・m/6500rpm ・燃料タンク容量:9.6L ・変速機:5段リターン ・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク ・タイヤ:F=2.75-21、R=120/80-18 ・価格:44万円(税抜当時価格)
後藤秀之