「ゆかり」一本足打法からどうやって抜け出した? 三島食品の運命を変えた“事件”とその後
売り場のにぎやかしにも一役
「名前シリーズ」はSNSでのバズりだけにとどまらなかった。営業面でも成果をもたらしている。一例を挙げると、スーパーマーケットの棚を面で獲得できるようになり、売り場での三島食品の存在感を発揮できるようになった。当然、売り上げも連動して増加した。 「通常は商品棚に単品で並んでいますよね。でも、名前シリーズができてから、ふりかけ棚というよりも、大陳と言ったりするのですけど、うちの商品だけで売り場に場所を作ってもらえるようになりました。他社と比べてその陳列が特徴的で、認知度アップになっているかもしれません。同じようなデザインの商品がずらりと並んでいると、お客さんはすごく強いイメージを持つようです」 そこから小売・流通とのコミュニケーションはさらに深まっていき、提案活動の幅も広がった。23年から同社が取り組む「メイン食材販売支援プログラム」もその一環といえよう。これは、スーパーの生鮮食品販売をサポートするため、「ゆかり」を活用したレシピを提案するというもの。 「例えば、野菜売り場で長芋を売りたいという時に、とろろと『ゆかり』を合わせたメニューを紹介するんですよ。場合によっては総菜売り場でその商品を作って売るとかね。つまり、うちの商品と食材とのコラボの提案をする。そうすると、単純にふりかけが売れるだけじゃなくて、野菜も肉も売れるようになる」 このプログラムを始めてから精緻な販売データを取り続けているため、その実績を説得材料にしてスーパーなどにより具体的な提案ができるようになった。この取り組み自体は決して目新しいアイデアによるものではないというが、行動に変えたことが大きかったと野口氏は強調する。 「うちの商品がご飯だけではなく、いろいろな食材に使えることは当然わかっていたし、お客さんが実際、『ゆかり』を使った和え物を作っていることも私たちは知っていました。ですから、そういった活用を促せば、もっと商品の売り上げも伸びますよね。これは他社も同じ状況のはずです。ところが、具体的にそれをどうやって販促やマーケティングにつなげていくか、ここがなかなかできていないようです」 三島食品のこのプログラムは、今では販促のためだけではなく、スーパーの売り場のにぎやかしにも一役買っているそうだ。 「被りものをしていろいろと芸をやってみたり、店内をパレードしてみたり。単純にモノを売るだけではなくて、皆が面白がるようなことを結構やっています」 とにかく目立つにはどうすればいいかを考え、人の目を引くことをやろうと、社員が皆でいろいろと知恵を絞って形にしている。 三島食品の知名度アップに向けたブランディング活動はまだまだというが、もう「ゆかり」だけの会社とは呼ばせない。それくらいのレベルに同社は変貌を遂げたと言っていいだろう。 (フリーランス記者、伏見学)
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