ダルビッシュの復活進化を示す15cmとは?
数値は、ピッチャープレートの真ん中を起点に、一塁側でリリースしているほど数字が大きくなり、三塁側に寄っているほどマイナスとなる。これを見るとダルビッシュの場合、6月以降、徐々に三塁側寄りでリリースする傾向が出ており、2014年と比べればざっと15センチほど変化していることが分かる。 本来、そうした場合の原因として、肘が下がった、プレートの踏む位置を変えた、横から投げるようになった等々、様々な要素が考えられるわけだが、グラフを見たダルビッシュは、ここでも理由を即答した。 「インステップになってるんでしょう」 インステップとは、右投手であれば、踏み出す左足がやや三塁側に着地し、両足がクロスすることを指し、クロスステップとも呼ばれるが、確かにそれならリリースポイントが三塁側に寄っていることの説明になる。 インステップが過ぎると、無理に体を捻ることから、故障のリスクもあるとされるが、特に右打者には、自分に向かってボールが来るように感じられて脅威だ。到底、踏み込むことなど出来ない。日本では、藤浪晋太郎(阪神)のインステップの是非が議論されているが、ダルビッシュの場合、そこまで極端ではなく、また、制球を乱しているわけではないので、この程度なら気にすることもないだろうというのが本人の考え。 「(グラフを)見るまで、分からなかったですから」 ただ、その傾向を理解した上で、7日の練習前に曲がらなかったスライダーの修正を試みると、一つのヒントを得た。「いい感じでした」と手応えを口にしながら、ポイントを明かす。 「ステップですね」 次の言葉を待つと、今度は投げる真似をしながら教えてくれた。 「インステップでスライダーを投げようとすると、窮屈になるんです」 腕がスムーズに回りきらない。それはしかし、ステップを真っすぐに修正することで解消される。 「見ていてください。次の登板が楽しみです」 含み笑いには自信が滲んだが、果たして10日のエンゼルス戦ではそのスライダーで相手打線を翻弄した。 ダルビッシュは試合後、「ステップもちょっと修正して、肘の位置もちょっと、下げ気味でっていう感じです」とポイントを要約。7日のキャッチボールで得た手応えは間違っていなかったかと聞くと、頷いてから言っている。 「試合前までは、80%ぐらいまで来ていて、試合中に元に戻ったかな、という感じがしました」 さて今回、4日と9日の登板間に3日ほど、雑談形式で話を聞いた。 リリースポイントが上がっている、というグラフを見せてから、段階的にいろんな話になったわけだが、改まった取材という形ではなく、だからこそ、いろんな話をしてくれたのかもしれないが、内容があまりにも興味深かったので、「リリースポイントをテーマに原稿を書きたい」と伝えると、ダルビッシュは言った。 「もちろんです。僕が言ったこと、全部使っていいですよ」 角度のある真っすぐを生かしながら、スライダーの修正を試みる中で、リリースポイントの高さやステップの位置をどう変えていくのか。「難しい」とさえ漏らした葛藤の裏で、どう答えを見つけるのか。 トミー・ジョン手術から復帰して3ヶ月。その様に触れ、ダルビッシュの現在地が、垣間見えた。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)