ダルビッシュの復活進化を示す15cmとは?
ダルビッシュといえば、誰もが認める大リーグ屈指の投手である。先ほども触れたように、三振が必要なときには、ギアを入れ換えて、いつでも取れる。最速100マイル。加えて、4シーム、2シーム、カッター、カーブ、スライダー、チェンジアップを自在に操り、カーブにしても、通常のカーブとスローカーブがあり、2シーム、カッターともに、スライドするものと落ちるバージョンを投げ分けるなど、派生する球種も少なくない。 ところが、そんな投手でも、当然といえば当然なのかもしれないが、日々、試行錯誤を続ける。その中では、何かを優先させれば、何かを失うこともある。 それでも答えを探す。 昔、イチロー(マーリンズ)がこんな話をしていたのを思い出した。2009年に9年連続200安打を放った夜のことである。 「(自分の中に)相反する考え方が共存している。打撃に関して、これという最後の形はない。これでよしという形は絶対にない、っていうことを分かっている。でも今の自分が最高だっていう形を常に作っている。この矛盾した考え方が共存しているということっていうのは、僕の大きな助けになっていると感じていますね」 ダルビッシュも今のフォームがベストだと感じながらも、追求に終わりがないことを知っている。だから、考えて、考えて、考え抜く。聞こえるかどうか、という小さな声で言った。 「難しいですよ」 ところで、リリースポイントを高くしたことのメリットはいくつかある。 まず、角度がつく。極端に言えば、真上から落ちてくるボールを打つのと、水平に向かってくるボールを打つのとどっちが厄介か。難しい話ではない。しかもダルビッシュの場合、身長もある。2メートル近い選手が上から投げれば、その角度はより大きくなる。 「あと、奥行きが使えます」とダルビッシュ。 例えば、サイド気味だと左右しか使えない。しかし、上から投げれば、左右に加え奥行きが使える。カーブを投げるにしても、ホームプレートの前後を立体的に使える、というわけだ。 肘への負担も軽減できると考えられる。リリースポイントが下がっている場合に考えられるのは、より打者に近いところで投げているか、肘が下がっているケース。後者の場合、肘に遠心力がかかり、故障の一因ともなる。 しかし、その一方で、本人が指摘したように、スライダーが曲がりにくくなる、といったデメリットもある。逆に、カーブは投げやすくなるが、「左打者は、縦のカーブを振らない」とダルビッシュ。「見やすいんでしょう。スライダー気味の(カーブの方)が有効です」。一長一短。本人にはもどかしいところが、その奥深さに野球の面白さがのぞく。 なお、同じリリースポイントのデータには、もう一つ、これまでとは違う傾向が出ていた。以下に添付したのが、ダルビッシュのリリースポイントを縦ではなく横で捉えた場合のグラフ(グラフ2)だ。