「骨のきしむ音が聞こえた」ピューマに襲われたサイクリング中の女性、見捨てない仲間が演じた45分間の死闘
ピューマの口に直に手を突っ込む
辺りの木の枝や岩を投げつけて撃退しようと試みるあいだに、ピューマの一撃がベルジェールさんを襲った。鋭い爪を見舞われ、ベルジェールさんの口から頬にかけてが大きく切り裂かれる。 見かねた仲間が自らの手をピューマの口に差し入れ、噛みつかれたケリーさんを解放しようとする。危険な賭けだったが、どちらかが生き延びればそれでいいとも思った。「次第に歯が動き、私の方を噛もうとしているような状況になりました。だからこう言ってやったんです。私たち両方を仕留めることなど、お前にはできないんだよ、って」 相手は予想以上に手強かった。10キロ以上もある岩でピューマを繰り返し殴るが、それでもベルジェールさんは解放されない。 15分ほど死闘を演じたころ訪れたかすかな勝機を、ベルジェールさんと仲間たちは見逃さなかった。ピューマの気が緩んだ一瞬を狙い、ベルジェールさんは這うようにして脱出。仲間たちは乗っていた自転車を盾のようにしてピューマに飛びかかると、2台の自転車で挟み込んだ。ピューマが側溝に倒れると、自転車を横にして上から押さえつけ、蓋のようにしてピューマを組み敷いた。 NBCが公開した動画には、信じられない写真が掲載されている。生きた野生のピューマが自転車の下に組み伏され、上にベルジェールさんと仲間たち5人が乗り、全体重で押さえ込む光景だ。ピューマの抵抗が弱まると3人ほどで押さえつけることができたようだが、用心深いベルジェールさんは手近にあった岩も乗せ、重石の足しにしている。
気丈なベルジェールさん「またいつか仲間とサイクリングへ」
別の仲間は後日になって、ベルジェールさんは顔に大けがを負いながらも、冷静さを欠かなかったと振り返っている。「私たちは『大丈夫?』と声をかけ続けました。彼女(ベルジェールさん)は大丈夫だよ、と親指を立てました」 「その指も血みどろでしたけれど」と加える仲間に、取材を受けているベルジェールさんから笑みが漏れる。 NPRによると、通報を受けた魚類野生生物局の職員が駆けつけるころには、襲撃から45分間ほどが経っていたという。ピューマは殺処分された。仲間は「心が張り裂けるようだった」としながらも、ベルジェールさんかピューマの命、どちらかを選ぶ必要があったと語る。 顔に大きな傷が残り、神経の一部にも回復不可能なダメージを受けたベルジェールさんだが、命だけは助かった。仲間への感謝は尽きない。「彼女たちが戻ってきてくれなければ、間違いなく私は死んでいたのですから」 命懸けでピューマに立ち向かった仲間の1人は、こう語る。「友情と愛情の本質は、行動することにあると思うのです」「やるべきことをしたまでです。本能の赴くままに。命を守るために」 5日間入院したベルジェールさんだが、情熱は衰えない。共にピューマと闘ってくれた4人の友人たちと、またサイクリングに出かけたいと話しているという。
文:青葉やまと