既存の隠れ債務の解消策(11月8日発表)について
評価
地方政府の隠れ債務は、財政・税制度の歪みから、本来、中央・地方政府が資金調達して行うべきプロジェクトを、資金不足の地方政府が行ったことに由来するものも多い。その点では今回の措置は、隠れ債務を地方政府予算に組み入れて表面化・透明化して本来の姿にしているに過ぎない。 また、(既存債務の推定額が過少評価されているという議論は措くとして)政府発表の14.3兆元の既存債務を処理したとしても、新たな隠れ債務が生じるリスクは残る。実際、隠れ債務は2018年以降、5年から10年かけて徐々に既存債務を解消する方針の下で徐々に減少していたが、コロナ禍以降の財政難で再び拡大した経緯がある。今回の発表では、問責制度の厳格化等、監督管理面での対応が述べられているが、抜本的な解決には、中央政府と地方政府間の税・財政制度を見直す必要があり、当面は、中央政府から地方政府への移転支出を増やす等の措置を採らなければ、再び隠れ債務は増加してしまう恐れがある。
今後
なお、今回の発表には、実需となる財政刺激(日本で言う真水)がなかった。しかし、記者発表会で、財政部は中国の政府債務比率(含む上述の隠れ債務14.3兆元)が国際比較上低く、財政赤字拡大の余地は大きいとの判断を示した上で、さらなる税・財政政策を画策していると述べている。また、来年の経済発展目標との関係では、専項債の規模拡大、超長期公債の発行継続、大規模な設備更新の支援や消費財の下取り・買い替えの拡大、中央政府から地方政府への移転支出の拡大なども挙げている。 神宮健(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフ研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【神宮健のFocus on 中国金融経済】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
神宮 健