日本三大うちわ「房州うちわ」 やさしい風を届ける“うちわ職人”を育てた追い風、向かい風……
晴れてうちわ職人となった石山好美さんですが、手にしたのは、うちわ作りの技術だけでした。どんなに丹精込めてうちわを作っても、売る場所が全くありません。 そこで、石山さんは、百貨店を訪ね歩いて、伝統工芸品の催事に販路を求めます。地域のクラフト教室など、小さなイベントにも、こまめに顔を出していきました。 ただ、百貨店への出店が叶っても、今度はどうやって売ったらいいのか分かりません。うちわについてアレコレ話しても、お客さんの心には響いていませんでした。 そこで、同じようにブースを構えているほかの職人さんに、どうやって売っているのか、お客さんが喜ぶ話題は何かを聞いたりしながら、石山さんは営業力を磨いていきました。
そのなかで、石山さんは改めて「房州うちわ」の魅力を実感します。 「房州うちわは、様々なうちわのなかでも、とくに手間がかかっていると思います」 それというのも、ほかのうちわは、いわゆる普通の竹・孟宗竹を割って、作りますが、「房州うちわ」は、細い「女竹」を一本使って作るからです。持ち手は丸くなって持ちやすい分、細長い筒状の竹を平面にする必要があるために、職人さんは一層、繊細な作業が求められるというわけなんですね。 「でも、房州うちわは、細くてしなやかな竹を使っているからこそ、ふんわりと頬を撫でるようなやわらかい風を生み出すことが出来るんです!」 そう、誇らしく話す石山さんには、二つの夢があります。 一つは、房州うちわの「価値」をもっと高めること。そして、若い世代が安心して職人の道へ入れるような道筋を作って、次の世代へバトンを渡したいと考えています。 もう一つは、房州うちわの「海外進出」です。 じつは今月、石山さんは初めて海外で「房州うちわ」作りのワークショップを開きました。アメリカ・フロリダの会場では、ニッポンの「うちわ」という文化に触れた地元の皆さんが、口々に「楽しい!」と話してくれたといいます。
追い風、向かい風、いろいろな風を浴びてきた石山さんですが、技への探求心は、留まるところを知りません。 「本当に竹の割り方ひとつで、風のやさしさは変わるんです。一人一人にどうやって心地よい風を届けるのか……。そこが今、一番こだわっているところです」 石山さんこだわりの「房州うちわ」が、この夏もやさしい風を届けます。