「朝ドラ“優三さん”とのギャップがすごい」仲野太賀、「大きな瞳をひん剥いた」小池栄子ーー「新宿野戦病院」が“もっと評価されてもいい”根拠
いろいろな顔を自在に演じることが俳優のプライオリティになる。とりわけ仲野太賀の飛距離は圧巻である。 『虎に翼』では、こんなにいい人はいないと言われるほどの善人・優三さん(主人公の最初の夫)を演じ、亡くなったときには優三さんロスが巻き起こった。 ところが、『新宿野戦病院』ではちゃらくて食えない美容皮膚科医なのである。話が進むにつれてじょじょにいい人になっていくものの、SMの女王様に攻められている姿に優三さんファンは苦笑いという感じだったと思う。
■「ゆとりモンスター」から「秀吉の弟」まで かつてスター俳優は、高倉健や渥美清など、一定のイメージを守り続けていたものだが、仲野太賀は、固定した役のイメージを抱かないでくださいとばかりに毎度、視聴者のイメージをひらりひらりと覆していく。 数年前の出演作『ゆとりですがなにか』(2016年、日本テレビ系)ではコンプライアンスを逆手に会社の上司たちに強気で振る舞う「ゆとりモンスター」と呼ばれる恐るべき若手社員を演じていたが、その後に、いい人すぎるほどの優三さん。そして次はちゃらい美容皮膚科医と、イメージのアップダウンを繰り返している。
いや、演技の幅的には評価はアップし続けていると言ってよい。この勢いのまま、主演作、2026年度のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』に突入し、堂々、豊臣秀長役を演じてほしい。くせ者・秀吉の片腕だった弟はたぶん“いい人”のはずである。 仲野を筆頭に、同じ人とは思えない人物を軽やかに演じる芸達者な俳優たちの名演技によって『新宿野戦病院』は毎回楽しく見ることができた。 多国籍で、富裕層から貧困層まで幅広い人たちが集う新宿歌舞伎町。誰もを受け入れる懐の大きな街にある聖まごころ病院は、どんな患者でも受け入れる、まさに人間交差点の交差点。そこに出入りする人たちと医者たちの人間模様は、笑いあり涙あり。
とくに後半、LGBTQの息子(塚地)と認知症になった母(藤田弓子)の親子愛や、リアリティある「ルミナ」という未知のウイルスによる感染症の蔓延など、ヒューマンなエピソードが増えた。もともと令和の『赤ひげ』のような気配はあったが、その傾向が終わりに従って色濃くなってきた。 宮藤官九郎の描く、おもしろくないと負けのゲームのように、会話におもしろさを絶対に付与したうえに早口でしゃべる会話場面と、みんな大好き“ヒューマン医療ドラマ”がかけあわさった社会派医療コメディとして、このままきれいにまとまりそうだ。これだけいいキャラクターが集まっているのだからシリーズ化してほしいくらいである。